バーブラ・ストライサンドの最新アルバム「バック・トゥ・ブルックリン」に聴き惚けている。生粋のブルックリン子バーブラが、2012年10月、初めて生まれ故郷でおこなったコンサートのライブ録音である。

 このアルバム、実に中身が濃い。

 彼女はそのときすでに70歳に達していたはずだが、声の張り、色艶とも申し分ない。歳を重ねて、むしろ感情表現が滑らかになった。
「ピープル」「追憶」「イエントル愛のテーマ」などの持ち歌も、「魅せられて(Bewitched)」「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」などのスタンダード曲も、完璧に彼女自身の“歌”になっている。

 前回の全米ツアー・ライブ盤(「ライブ・イン・コンサート2006年」)では、感極まった彼女が、“ I’m like butter. Well thank you so much.”とつぶやいていたが、前回も、そして今回は更にそれ以上、「バターのようにとろけてしまいそう」なのは、バーブラの名唱のとりこになった私たちのほうではなかろうか。

 曲目の取捨選択、その配列、個々の曲の編曲、どこから見ても一分のすきもない。緩急を心得た歌いぶりは、今更超一級品の太鼓判を押すまでもなかろう。

 イタリアの若者三人組イル・ヴォーロ、トランペット奏者クリス・ボッティ、わが子ジェイソン・グールドと、ゲスト出演者も、コンサートの流れを考えた上での憎らしくなるほどのチョイスである。

 今回の「追憶」は格別の思い入れが感じられる。12年8月、この世を去った同志マーヴィン・ハムリッシュ(もちろんこの曲の作曲家でもある)を追悼する意味が込められているからだ。

 The way we were・・・・・・のweはマーヴィンとバーブラ以外の何者でもない。

 バーブラは、しばしば曲の作り手たちの名前を紹介する。マーヴィンのほかには作曲家のジュール・スタイン(「ファニー・ガール」)、作詞家のアランとマリリン・バーグマン夫妻など。コンサートで作詞家作曲家に敬意敬愛の念を示すは、アメリカ・ショウ・ビジネスの美しき伝統だが、バーブラはほかの歌手以上にその気持ちを強く持っているようだ。

 ジュール・スタインの曲では、「ロージーズ・ターン」(ミュージカル「ジプシー」)が圧巻である。わが子たちを一流芸人に育てようと奮闘した挙げ句、次々に子どもたちに去られてしまうママ、ローズの孤独が、曲の隅々にまで滲み出ていた。

 そう言えば、一時、バーブラ監督、主演で「ジプシー」が映画化されるという噂もあったが、どうなったのだろうか?
(続く)

同じライブ盤ですが、是非聴きくらべを!

(2012年)     (2006年)