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 年頭に際し、皆さんのつつがなき一年をお祈りいたします。私も新たな知的刺激を日々の糧に元気に過ごしたいと思っております。

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さて、ことし第一回のブログは・・・・・。

 クラシック専門誌「MOSTLY CLASSIC」(産経新聞出版)に、ジュゼッペ・トルナトーレ監督(「ニュー・シネマ・パラダイス」)の新作「鑑定士と顔のない依頼人」の広告が載っていた。題名から美術ネタとわかるミステリーものの広告が、またどうして音楽雑誌に?音楽が巨匠エンニオ・モリコーネだから?いや、それだけでは理由が薄弱過ぎはしまいか。その謎に惹かれて、正月早々、行ってきましたよ。

 で、エンドロールを眺めながらの感想を一行にまとめると、ハイソなレストランで贅の限りを尽くしたフルコースをたっぷり味わったあとの満足感というところか。素材と料理の腕がいいので胃にまったくもたれない。

 このあまり体験出来ない充足感はどこから来るのか。主人公ヴァージン・オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)の人物設定が実に巧妙に作り上げているからだろう。

 オールドマンはいつもきちんと背広を着こなす60歳ちょっと過ぎの紳士である。職業は古美術鑑定士兼競売人。住んでいるのは北イタリアのどこからしい。彼の名前は、その真贋を見抜く鑑定眼によって世界中に鳴り響いている。

 教会の孤児院で育ち、美術の知識、修復技術は僧侶たちから学んだ。今もって独身。かつこれまで女性の肌に触れたことがないという(ここの部分はやや不自然)。

 オールドマンはコレクターでもある。贋作画家ビリー(ドナルド・サザーランド)と組み、オークションで狙った作品を巧みに手に入れている。このあたりが古美術業界の楽屋裏を覗いているようで、とても興味深い。他に古い道具類直すことにかけては腕っこきの青年ロバート(ジム・スタージェス)が、重要な役割で登場する。

 大筋は、無敵のオールドマンと彼の前に現れた依頼人クレア(シルヴィア・ホークス)との恋物語である。両親の残した美術、家具類の鑑定を頼んでおきながら、彼女はなかなか姿を見せようとしない。無敵のオールドマンがこのクレアの術数にまんまとはまってしまう。

 見どころのひとつは、好みの名画(女性の肖像画のみ)を壁中に架けた秘密の居間と、その部屋で悦楽の時を過ごすオールドマンの姿だろうか。

 ミステリーだが、私は謎解きよりこの主人公の奇怪な生きざまに興味を掻き立てられた。ジェフリー・ラッシュ人物造形が堂に入っているせいもある。

 そうそう、「モーストリー・クラシック」の広告でしたね。映画を見てもよくわかりませんでした。


 でも、一部のクラシック音楽好きを惹きつける要素がこの映画にないわけではない。
クラシック好きをくすぐるペダンチックな部分がいっぱいありますからね(実は私自身、時と場合によってはペダンチシズムが嫌いじゃないので、この映画が好きなのかもしれません)。


鑑定士を巧演したジェフリー・ラッシュ