私自身にいかに映画と向い合う力が不足しているか、その事実を思い知らされる作品に
出会った。アメリカ映画『悪の法則』(原題「The Counselor」)である。

 監督は『エイリアン』、『ブレードランナー』のリドリー・スコット。演技陣にはマイケル・ファスベンダー、ペネロペ・クルス、キャメロン・ディアス、ハビエル・バルデム、ブラッド・ピットと第一級スターがずらりと並ぶ。

 しかも脚本はピューリッツァー賞作家コーマック・マッカーシー(『ノーカントリー』の原作者)の書き下ろしと来た。

 ファスべンダー演じる遣り手の弁護士が一回こっ切りのつもりで麻薬取引きに手を染め、
決定的窮地に落ち入るという、ただそれだけのお話である。

 ところが、登場人物たちの人間関係、行動原理がさっぱりわからない。わかるのはファスべンダーの弁護士がペネロペ・クルスのキャビン・アテンダントの恋人を熱愛していることくらいか。

 キネマ旬報の星取り表(5点満点)を見ると、秋山登氏が4点という高得点をあたえながら、「省略と暗示の技法が顕著だから、消化不良を起こす人もありそう」と書いている。まさに私も消化不良かもしれない。同じく4点の筒井武文氏も「因果関係を全部説明していない」と不満気である。

 書店へ行ったら映画脚本が出版されていた(黒原敏行訳、早川書房刊)。著名作家のオリジナル脚本なればこそ。

 映画でわからなかったことがわかるかと思って一読する。でも“消化不良”は直らなかった。むしろ悪化したくらいだ。

 脚本のマッカーシー、それに乗ったスコット監督は何を描きたかったのか。人間の心の奥底に潜む“悪徳の栄え”への強い願望だろうか。人間と悪の立ち切れない関係にもっと踏み込んで欲しかった。

 公開時の新聞広告は五大スターのアップ写真を並べ、それぞれの役柄を書き添えるという異例のものだった。

“有能な弁護士”マイケル・ファスべンダー、“弁護士を惑わせるフィアンセ”ペネロぺ・クルス、“謎めいた愛人”キャメロン・ディアス、“裏社会のフィクサー”ハビエル・バルデム、“危険な麻薬ブローカー”ブラッド・ピットというふうに・・・・・。

 ぶっつけ本番で見たのでは、私のようにわからないの連発になるので、こういう親切な広告を打ってくれたのかな。

脚本も出版されている。見てから読むか、読んでから見るか?