キャラクター玩具やファミコンゲームなどでその名を馳せるバンダイのリーダー山科誠氏。急成長を遂げた企業にふさわしい昭和二十二年生まれの“青年”社長である。

 一見、細身でスマートなところは、いかにも慶応ボーイだが、普通部三年生から大学卒業までの丸四年間、柔道部で通したという。

 稽古に明け暮れた汗まみれの青春だったわけだが、折々のヒット曲も熱心に聞いた。
 昭和四十一年、加山雄三「君といつまでも」、マイク真木「バラが咲いた」、四十二年、ジャッキー吉川とブルー・コメッツ「ブルー・シャトー」、四十三年、ピンキーとキラーズ「恋の季節」など。歌謡史的に言うとポップス調流行歌が台頭しはじめた時期である。

 とりわけ加山には、学校の先輩ということもあり、あこがれた。スポーツ、音楽なんでもこいの加山は、山科氏だけでなく、あのころの若者の理想像だったのだろう。

 「恋の季節」の「夜明けのコーヒーふたりで飲もうと…」という一節が気に入って、友人と「ガールフレンドができたら、いちど使ってみたいな」と語りあったことも。そのチャンス、果たしてあったかどうか。 
 (1990/9/20)

 (追記)
山科誠氏は現在、日本おもちゃ図書館財団理事長。かたわら茶屋二郎の筆名で小説も発表している。