桐島さんのノンフィクションやエッセーには海にちなんだ題名のものが多い。いわく「貴方にもこの潮風を樹の匂いを」「大草原に潮騒いが聴える」などなど。

 ニューヨークに近い海辺の町イースト・ハンプトンで子連れの生活を送った時期もある。
 「人生最初の両親といっしょの記憶は船の上なんです。二、三歳のころ上海航路だったと思います」

 そんなわけで、彼女が親しみを感じてきた音楽は、おのずとドビュッシーの交響詩「海」ということになる。格別、二曲目の「波のたわむれ」に心惹かれるそうだ。

  この曲は、波のさまざまな変化を繊細に描き尽くしていて、印象派作曲家ドビュッシーの面目躍如たるものがある。桐島さんは、おだやかな海の表情を連想するという。

 この七月、桐島さんは、日本郵船の豪華客船クリスタル・ハーモニー号の処女航海に参加して、ホノルルまでの旅を大いに楽しんだ。

 「郵船って斜陽族みたいな会社だった。それが客船航路を復活させたわけでしょ。わたしも、少しの斜陽の体験があるので、とてもうれしかったんです。遂に日本もここまできたかって」
 (1990/8/23)