ともするとスターの座にある者にしかスポットライトは当たらない。中国の古い詩句はこう言っている。「一将功なりて万骨枯る」と。

 その万骨のひとつにスター歌手のうしろで歌うバックコーラスがいる。映画『バックコーラスの歌姫(ディ―バ)たち』(監督 モーガン・ネヴィル)は、公私にわたる彼女たちの生きざまを鮮かに描き出したドキュメンタリー・フィルムである。万骨のひとつになった人、ならずに頑張っている人、いろいろ出て来る。

 ただし“恨み節”はない。むしろ楽天的でさえある。このたくましさに胸を打たれる。

 原題がいい。『20 FEET FROM STARDOM』。スターの座からたった20フィート、わずか6メートルしか離れていない。しかし、同時にとんでもなく離れているようにも思える。

 この映画は、主として彼たちの気どらぬ発言、過去現在の豊富な映像で構成させている。それらを通じて彼女たちの音楽と人生の係り合いが、実に見事に浮かび上がって来る。

 登場するコーラスガールたちは10名以上、いやもっとか。私にはなじみのない名前ばかりだが、その真摯に生きる姿には深く深く共感するものがあった。

 彼女たちのひとりダーレン・ラヴは仕事がなくなり家政婦をやっていた時期がある。掃除機をかけていたら、ラジオから彼女がブロッサムズというグループの一員だった頃の「クリスマス」という曲が流れて来た。

 のち彼女はロックの殿堂入りすることになるのだが、母親が友人に「今、娘は授賞式でニューヨークに行っているのよ」と告げると、その友人から「どの娘?」と尋ねられる。母親は「ほら、お宅で家政婦をやっていた子よ」と答える。思わず微笑ましくなるエピソードだ。

 「ギミー・シェルター」でローリング・ストーンズと係わったメリー・クレイトンが、「ミック・ジャガーと怪しい空間を共有した」と告白しているのも興味深い。“その怪しい空間”はオン・ステージばかりではなかったように思われなくもない。

 この映画は、バックコーラスのルーツがゴスペルにあることも明示している。「歌手とバックコーラスの関係はまさに牧師と会衆の関係等しい」という発言も出て来る。なるほど、そう言われればそうだ。

 ブルース・スプリングスティーブン、スティング、スティ―ヴィー・ワンダーらもインタビューを受けているが、誰もがバックコーラスに暖い視線を注いでいる。ついメモしたくなる貴重なコメントが一杯出て来る。大スターの飾り気なさが実に感じがいい。

 バックコーラスの歌姫たちは、なぜたった20フィートの距離を埋められないのか?才能、努力、運?それらが微妙にからみ合っての結果か?

 このドキュメンタリーにその答えが隠されているにちがいない。それを知るために、よーし10回は見るぞ!

スターを陰で支えるバックコーラスの彼女たち。
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