西部劇から時代劇へ、『許されざる者』の見事なリメイク | 安倍寧オフィシャルブログ「好奇心をポケットに入れて」Powered by Ameba

西部劇から時代劇へ、『許されざる者』の見事なリメイク

 女郎(忽那汐里)の顔を傷つけたならず者ふたり(小澤征悦、三浦貴大)の首に千円の賞金がかけられる。劒を封じたはずの十兵衛(渡辺謙)のもとに、昔仲間の金吾(柄本明)が賞金稼ぎをやらないかと訪ねて来た。

 途中から若僧の五郎(柳楽優弥)も加わり、やがてラストの大惨殺に至る展開は、クリント・イーストウッド監督・主演『許されざる者』(第65回アカデミー賞作品、監督賞、他2部門受賞)とほぼ同じと言っていい。

 李相日監督(アダプテーション脚本も)の見事なリメイクである。一見無謀、怖いもの知らずの企画に思えたが、李監督の周到な脚本と力業の演出で立派な作品に仕上がった。

 西部劇から時代劇へという発想の転換が決め手となったと思われる。

 時代はイーストウッド版と同じ1880年代。十兵衛を旧幕藩の最下級武士、今は貧農の身という設定にしたのが実にうまい。時代考証も行き届いている。

 それと場所をワイオミング州から北海道に移し替えた効果も見逃せない。かの地の大自然が画面に美しく照り映え、ドラマに広がりと深みをもたらした。

 配役、とくに男優陣がうまくツボにはまり、全員が熱演している。とくに渡辺の主演者としての牽引力には目を見張らされる。警察署長の佐藤浩市の憎々しさ、柄本のひょうひょうぶりも捨て難い。柳楽も少年俳優から大きく成長した。

 十兵衛が単身敵地に乗り込み、大暴れする最終場面は、李の執拗な演出、渡辺の揮身の演技で迫力に満ちあふれている。イーストウッドより長目にまわしているかに見える。

 軽率にイーストウッド版を超えたなどとは言わない。しかし、先行作品へのオマージュに満ちあふれた第一級作品であることは断言出来る。

(この映画についてよりくわしく知りたい方は、こちらをどうぞ。)
http://wwws.warnerbros.co.jp/yurusarezaru/index.html


渡辺謙演じる十兵衛はつぶやく。
「人を斬って…斬って斬って最後には誰かに斬られて死ぬ。ただそれだけの人生だと思ってた」(パンフレットより)。
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