87歳のトニー・ベネット、胸を張って、「私はエンターテイナー」
久しぶりに矍鑠(カクシャク)たるという言葉を思い浮かべた。しかし、たちまち立ち往生してしまった。カクシャクたると来れば、普通、老人と続くのだが、当のトニー・ベネットが少しも年寄り臭くなかったからだ。
ふさふさの髪、赤味を帯びた両頬、がっしりしたからだ付き、よく通るバリトンと、どこから見ても壮年なのだ。87歳と聞いて誰もがウソーッと叫びたくなるだろう。
9月4日、有楽町の日本外国特派員協会でおこなわれた記者会見は、本人もよく笑ったが、記者席からも笑い声が絶えなかった。
7日の東京JAZZで「霧のサンフランシスコ」を歌うかと問われ、
「はいお約束します。ここで今、歌えと言われても無理ですけど…」
と答えておきながら、数小節歌ってくれた。なんというサービス精神!
「私はポピュラー歌手でもジャズ歌手でもない。エンターテイナーだ」
と胸を張るだけのことはある。
「人を楽しませることが大好きなんだ」
とも。
本人が自分自身をなんと定義付けようと、ベネットはれっきとした一流のジャズ歌手である。『The Tony Bennett Bill Evans Album』(Fantasy/Concord)は、特に世評高い。ベネット自身も、
「これを出せたことを誇りに思う。この共演は人々に大きな影響をあたえた」
と語っていた。
新吹き込みということでは、レディー・ガガとの共演盤が、2014年1月、リリース予定だという。ガガとはすでに「ザ・レディ・イズ・ア・トランプ」で息の合ったところを聴かせてくれているが、来春の新アルバムは彼女との二重唱で埋め尽くされるのだろうか。
ベネットはガガに「プレスリー、マドンナ以上の才能」と高得点をあたえたばかりか、「エンターテインメント界のピカソ」と持ち上げた。
レディー・ガガには時代を変革する創造精神があるということだろうか。
「尊敬する先輩はビリー・ホリデイとルイ・アームストロング。ビリーにハーレムに誘われたとき、いっしょに行かなかったのは今も悔いている。あのころハーレムはまだ物騒な場所だったからね。アームストロングは今聴いても、ぜんぜん古びていない」
「ジャズは学問ではない」「ジャズでいちばん大切なのはフレキシビリティーだ」
という発言は、ともするとジャズの理論化が盛んな近来の傾向に対するさり気ない苦言と受け止めたい。
歌を歌う上で楽譜を読むことがどれだけ必要かという質問に対し、
「私はあまり読めなくてねぇ。直感でやっています」
と答えていたが、大御所としての居直りより正直そのものの人柄が感じとれ、ベネットのことがますます好きになった。
ベネットは画家としてもプロ級の腕前だが、関心のある画家としても葛飾北斎の名前を挙げ、
「いくつになっても勉強することがある」
と言っていた。
着ている洋服はすべてイタリアのBrioniだそうだ。
更に健康の秘訣は、コンサート前などにイタリア唱法のベルカントの発声を怠らないことだと付け加えるのも忘れない。
ニューヨーク生まれながら“イタリア男”のベネットだけに、どこまでもイタリアがつきまとう。
ふさふさの髪、赤味を帯びた両頬、がっしりしたからだ付き、よく通るバリトンと、どこから見ても壮年なのだ。87歳と聞いて誰もがウソーッと叫びたくなるだろう。
9月4日、有楽町の日本外国特派員協会でおこなわれた記者会見は、本人もよく笑ったが、記者席からも笑い声が絶えなかった。
7日の東京JAZZで「霧のサンフランシスコ」を歌うかと問われ、
「はいお約束します。ここで今、歌えと言われても無理ですけど…」
と答えておきながら、数小節歌ってくれた。なんというサービス精神!
「私はポピュラー歌手でもジャズ歌手でもない。エンターテイナーだ」
と胸を張るだけのことはある。
「人を楽しませることが大好きなんだ」
とも。
本人が自分自身をなんと定義付けようと、ベネットはれっきとした一流のジャズ歌手である。『The Tony Bennett Bill Evans Album』(Fantasy/Concord)は、特に世評高い。ベネット自身も、
「これを出せたことを誇りに思う。この共演は人々に大きな影響をあたえた」
と語っていた。
新吹き込みということでは、レディー・ガガとの共演盤が、2014年1月、リリース予定だという。ガガとはすでに「ザ・レディ・イズ・ア・トランプ」で息の合ったところを聴かせてくれているが、来春の新アルバムは彼女との二重唱で埋め尽くされるのだろうか。
ベネットはガガに「プレスリー、マドンナ以上の才能」と高得点をあたえたばかりか、「エンターテインメント界のピカソ」と持ち上げた。
レディー・ガガには時代を変革する創造精神があるということだろうか。
「尊敬する先輩はビリー・ホリデイとルイ・アームストロング。ビリーにハーレムに誘われたとき、いっしょに行かなかったのは今も悔いている。あのころハーレムはまだ物騒な場所だったからね。アームストロングは今聴いても、ぜんぜん古びていない」
「ジャズは学問ではない」「ジャズでいちばん大切なのはフレキシビリティーだ」
という発言は、ともするとジャズの理論化が盛んな近来の傾向に対するさり気ない苦言と受け止めたい。
歌を歌う上で楽譜を読むことがどれだけ必要かという質問に対し、
「私はあまり読めなくてねぇ。直感でやっています」
と答えていたが、大御所としての居直りより正直そのものの人柄が感じとれ、ベネットのことがますます好きになった。
ベネットは画家としてもプロ級の腕前だが、関心のある画家としても葛飾北斎の名前を挙げ、
「いくつになっても勉強することがある」
と言っていた。
着ている洋服はすべてイタリアのBrioniだそうだ。
更に健康の秘訣は、コンサート前などにイタリア唱法のベルカントの発声を怠らないことだと付け加えるのも忘れない。
ニューヨーク生まれながら“イタリア男”のベネットだけに、どこまでもイタリアがつきまとう。