(前書き)
 アメリカ仕込みのディスク・ジョッキーのはしりとでも言おうか、深夜放送などで人気の高かった高崎一郎さんが亡くなられた。
 謹んでお悔やみ申し上げます。

 まずは彼の往年の活躍ぶりを偲んで毎日新聞の記事を。そして私がかつて週刊朝日に書いた人物コラムも併せてお読みいただきたいと思います。なんと50年前の記事ですよ。
 当時のラジオ放送の模様が想像されようというものです。
 
(毎日新聞朝刊、8月16日付け)
 高崎一郎さん82歳(たかさき・いちろう<本名・俊威=としたけ>元ラジオパーソナリティー)
 10日、老衰のため死去。葬式は近親者で営んだ。お別れの会を後日開く。喪主は長女秀子(ひでこ)さん。

 1954年ニッポン放送入社。番組制作に携わる傍ら、67年に始まった深夜ラジオ「オールナイトニッポン」で初代パーソナリティーを務めた。
 フジテレビのバラエティー番組「オールナイトフジ」やテレビ東京の情報番組「レディス4」の司会として活躍した。パシフィック音楽出版。(現フジパシフィック音楽出版)社長や三越の顧問も務めた。

(週刊朝日、1963年12月13日号)
 やれ容易だ、低俗すぎると日頃非難ばかり浴びていたディスク・ジョッキー番組から、目の覚めるようなヒットが飛び出した。ニッポン放送「ポピュラー・パレード」の緊急特集「ケネディをいたむ街の声」である。

 この番組は、毎週土曜日の8時から1時間、西銀座デパートのサテライト・スタジオから放送されるもの。同放送高崎一郎制作部員が、自ら選曲、解説、皿まわしの3役を担当しているが、彼のくだけたしゃべりっぷりが評判を呼び、もともと若い層から圧倒的支持を受けていた。

 11月23日放送の分も、例によってプレスリー、コニ―・フランシスなど10代ファンの喜びそうな曲を集めて、準備中のところへ、あの悲報である。さっそく高崎プロデュ―サーは、ケネディ大統領に関係ある音楽と街頭録音の組み合せにスイッチしたが、あれだけ民放ラジオにディスク・ジョッキーがはんらんしていながら、真正面からケネディ追悼をうたった番組は、この「ポピュラー・パレード」ただひとつ。

 高崎プロデュ―サーのとった機敏な処置が、ひときわ光って見えたとしても、なんら不思議ではあるまい。

 この時間に高崎氏がかけたレコード音楽は、ケネディ大統領の演説にコーラスをつけた「自由の讃歌」、戦争中、大統領が艇長をつとめた魚雷艇にちなんだ「PT109」、「パパは大統領」、ミュージカル『ミスター・プレジデント』の主題歌「彼は世界でただひとりの男」など。それに後半30分間、コマーシャルなしで大統領が好んだフォスター・メロディーを流した。

 
 「これだけポピュラー音楽にとり上げられている大統領は、史上、ケネディしかいませんよ。各国の有名政治家で歌になったのは、ほかにチャーチル元首相がいるけれど、彼の場合は、からかい半分に扱われたにすぎません。ケネディが、大衆からいかに愛された大統領だったか、音楽的にも裏づけられようというものですね」
と高崎氏は語っている。

 ところで、高崎氏が、サテライト・スタジオのまわりに集った人たちにマイクを向けたとき、「できるものなら身代わりになりたかった」と発言した運送会社の運転手さんがいた。
 たまたま、これを聞いたアメリカ人の観光客が、すっかり感激、その運転手さんをさがしてくれ、と高崎氏のもとにいってよこしたという。

 この番組で、ディスク・ジョッキーと街頭録音を直結することができたのは、明らかにサテライト・スタジオのお陰だが、ラジオ・スタジオの盛り場進出というアイディアは、そもそもニッポン放送石田達郎編成局長のひねり出したもの。「ラジオがテレビに対して巻き返しを策すには、スタジオごと大衆のなかに飛込むしかない」という石田局長のねらいが、こんどのケネディ事件で的を射ることになったわけだ。

 高崎一郎氏はロンドン生れで、小学校2年生まで向う育ちだから、英語はペラペラ。ニッポン放送入社後も、ディスク・ジョッキーとFM放送研究のため渡米している。

 日本のディスク・ジョッキーは、他人の書いた台本を棒読みしてごまかすことが多いが、高崎氏のように、なにからなにまで、ひとりでやるのが、ほんとうのD・Jなのである。

 アメリカで人気随一のディスク・ジョッキー、ディック・クラークにあやかって、“日本のディック・クラーク”
と呼ばれるほど、在日米人の間でも名前が売れているそうだ。

 こんどの放送のお陰で、一躍、ジャーナリズムから“話題の人”に祭りあげられた高崎氏だが、本人は言葉少なに、「ラジオ・マンとして当然のことをやったまでですよ」
 と、語っただけだった。

ありし日の高崎一郎さん。
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週刊朝日に載った私のコラムです。古い切り抜き帖より。
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