68年前の暑い夏、焼け野原となった東京で密かに繰り広げられた物語である。

 連合軍最高司令官ダグラス・マッカーサー元帥(トミー・リー・ジョーンズ)は、天皇を戦争犯罪人リストからはずすべく策を練る。日本国民の天皇への敬愛の念を知っていた彼は、国民の意に逆らわないほうが、占領政策をスムーズに遂行出来ると考えたからだった。

 このマッカーサー元帥の占領政策は、ほぼ歴史的定説であって今更どうということではない。映画『終戦のエンペラー』(監督ピーター・ウェーバー)の新味は、元帥の片腕としてボナー・フェラーズ准将(マシュー・フォックス)を登場させたことだ。

 フェラーズは、いかに天皇が開戦と係わりなかったかを立証する証拠を求め、日本側の要人たちの間を駆け巡る。

 フェラーズは実在の人物だが、大学時代、日本からの留学生アヤ(初音映莉子)に恋をするという多分にフィクション的部分も付け加えられている。この味つけのせいでエンターテインメント性がぐーっと増した。

 これまでの敗戦秘話ものと異なり、日本映画ではなくハリウッド発というのが珍しい。でなくてはフェラーズというアメリカ軍人を主人公にすることは出来なかったろう。

 週刊新潮8月15日・22日号で、文芸評論家の福田和也氏が、トミー・リー・ジョーンズは「十歳くらい、余計にフケている。」、マシュー・フォックスは「准将としては、やや若すぎるような気もしますが…。」とケチをつけている。しかし両方ともハリウッド発でなくては到底なし得ないキャスティングのはずだ。

 ハリウッド発と言っても、プロデューサーのなかでもっとも中心的存在を果たしているのは、奈良橋陽子さんである。『ラスト・サムライ』『SAYURI』など、ハリウッド大作でキャスティング・ディレクターを務めて来た実績あってこそ、今回、この作品が花開いたのだろう。

 話が話だから、当然天皇が登場する。かつてロシア映画『太陽』でイッセー尾形が昭和天皇に扮していたが、今回は片岡孝太郎である。イッセーが天皇になろう、なろうとしていたのに対し、孝太郎は自然体でそれらしく見せている。特に天皇ならではの品格がよく滲み出ていた。

 戦争も敗戦も戦後もすべて遠くなりにけり。しかし、遠くなりにけりのままでは困る。忘れかけた近過去の歴史を振り返る意味で、戦争を知らない世代に是非見てもらいたい。

 プロデューサー奈良橋さんは、母方の祖父が宮内次官、枢密院顧問官として天皇家の身近に仕えた関屋貞三郎氏(1875~1950)という家系に育った。敗戦と昭和天皇は、彼女の念願の主題だったことは想像に難くない。

 映画のなかに関屋氏も登場し、公開前、他界した夏八木勲が好演している。昭和天皇が開戦前の御前会議で引用した明治天皇の御製をフェラーズ准将に朗々と詠んで聞かせる場面が、一世一代の名演技!


フォトギャラリーはこちらから。
www.emperor-movie.jp/sp/