猛暑にはブラック・ミュージックがよく似合う。目には目を、じゃなかった、汗には汗を!ビートのきいたダンサブルな音楽を浴びて、もうひと汗かくのも悪くない。

 というわけで、来日中のツアー・カンパニーによるミュージカル『ドリームガールズ』を見に行く(7月31日~8月25日、東急シアターオーブ、初日所見)。モータウン・レコードと創業者ベリー・ゴーディーJr.の成功物語、ダイアナ・ロスとシュープリームズ誕生秘話がもとネタですからね。

 とはいうものの、栄光のモータウン・サウンズと来れば、現時点でおのずと連想するのは、栄光とは180度対称的な昨今のデトロイト市の財政破綻、ゴーストタウン化である。巨大自動車メーカーの工場だった建物は荒れ放題のままというではないか。

 数々のヒット曲を生んだモータウン・レコードのスタジオ跡はどうなっていることか。

 『ドリームガールズ』のかなめとなる役は、女性コーラス三人組のひとりエフィーである。歌唱力抜群ながら容姿に恵まれないため、グループから追い出されるこの役を誰が演じるか、この舞台の成功はまさにその一点にかかっている。

 映画版の成功も、あの力強い声と自在の唱法の持ち主ジェニファー・ハドソンを見つけられたからこそだ。

 今回の来日カンパニーのチャリティー・ドーソンは歌唱力については申し分なく、「アンド・アイ・アム・テリング・ユー・アィム・ノット・ゴーイング」「アイ・アム・チェンジング」を力一杯歌い切っていた。

 東京にいながらにして見ることの出来るキャストとしては、これ以上望むのは贅沢と言うものだ。

 しかし、今回で来日が二度目となるロバート・ロングボトム振付・演出版については根本的なところで疑問を差し挟みたくなる。パネルと照明を巧みに用いることで確かに展開はスピードを増している。しかし、その分、個々の役柄の造形、人物関係の描出がなおざりになっていはしないだろうか。

 登場人物たちの綾なす緊迫のドラマなんかどうでもいいじゃないの、歌だけ、音楽だけ楽しんでもらえれば…というのなら、こういう作りもあるかもしれない。

 しかし、それならイン・コンサートに徹したほうがずっとスマートなのでは?

 ミュージカルとしてはドラマの深みが足りない、イン・コンサートとしてはパネル、照明、そして豪華な衣装が邪魔になるというのが、ロングボトム版の問題点と見つけたり。

 『ドリームガールズ』がブロードウェイで初演されたのは、1981年のこと。80年代は、ウーマン・リブとブラック・パワーがそれ以前より一段と盛り上がった時代だが、この作品はその動きを一早く予見していたかに見える。

 80年代も遠くなりにけり、いや、それともオンリー・イエスタデイ?

公演パンフレットより。
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