(前書き)
 新ネタ捜しと内容充実のために英気を養いたいと思い、しばし休筆いたします。その間の埋め合わせはアーカイヴからの記事でご容赦ください。

 今回のアーカイヴは、1990年4月から96年11月までの毎週月曜日、経済新聞に長期連載したコラム「人と音楽」です。各界知名士と音楽の因縁話を綴ったコラムです。

 月、水、金曜日にUPいたします。その方々の風貌、容姿を思い浮かべつつお読みいただけると幸いです。なお登場する皆さんの肩書きは掲載当時のままにしてあります。

 このコラムに登場後亡くなられた方々には心より哀悼の意を捧げます。

 では「人と音楽」第1回“大鷹叔子議員と「ラ・マラゲーニャ」”をどうぞ。

 (本文)
 「私って日本人なのに四畳半趣味がまったくないの。三味線や小唄端唄にはあまりひかれないわ。」さすが大陸生まれ大陸育ちは言うことが違う。

 しかし、彼女がふと口ずさむのは中国の歌ではない。意外なことにメキシコの民謡「ラ・マラゲーニャ」である。昭和三十一年メキシコに遊んだおり、覚えたのだそうだ。帰国してモノクロだったNHKテレビでこの曲を歌ったこともある。あとで新聞で「日本で『ラ・マラゲーニャ』を歌った最初の歌手」と書かれ、へーえ、そうだったのと驚いたという。この歌がアイ・ジョージによってヒットする以前のことだ。

 大鷹さんはこの曲にかぎらずラテン音楽をこよなく愛する。情熱的なギターの調べが彼女の好みにぴったりなのだろう。「好きな音楽を聴いていると政治の世界をふと忘れ、イマジネーションがかぎりなく広がっていくんですよ」

 無派閥議員なので各派から誘いがあるらしいが、ラテン音楽のなかに閉じこもってしまえば、そのような煩わしさをシャットアウトすることもできる。ラ・マラゲーニャには黒髪の情熱の女という意味もある。外交に精力的に取り組む大鷹さんに似合う曲といえそうだ。(1990/4/5)

 (追記)
 大鷹さんは、李香蘭、山口叔子の名前で活躍した女優・歌手でもある。当時は参議院議員だった。