ことしのアカデミー賞授賞式(2月24日)で、作品賞のプレゼンターとして大統領夫人のミッシェル・オバマが登場したときは、私も少なからず驚かされた。

 しかし、ハリウッドがワシントンを取り込んでいるとか、政治が映画を利用しているとかいう感想は、私の場合、知的瞬発力が鈍いのか、浮かんで来なかった。

 むしろ目が釘づけになったのは銀色のきらきら輝くドレスに身を包んだハリウッドの女優に負けない、あるいは彼女たちを超えているかもしれないミッシェルの存在感だった。知性と美貌とふたつながら授かった彼女のような女性は、そうざらにいるとは思えない。

 もっとも、このアカデミー賞授賞式へのファースト・レディ登場にはさまざまな意見があるようだ。

 まずコラムニストの天野祐吉氏(3月6日付け朝日新聞「CM天気図」)。

 「こういう映画賞は、受賞した個々の作品の広告になると同時に、映画というもの自体の広告になる。そういう意味では、ここでは大統領夫人も映画の広告に一役買ったということになるんだろう。」

 作家の小林信彦氏(週刊文春3月14日号「本音を申せば」)。作品賞プレゼンターがジャック・ニコルソンとミッシェルの二人三脚だったことに触れ、

 「ぼくが感じたのは、ジャック・ニコルソンでは弱いので、視聴率をとるために演出したような気がするが、いささかやり過ぎではないか、というもの。」

 脳科学者の茂木健一郎氏が、朝日新聞の「アカデミー賞『アルゴ』 異例の大統領夫人発表に批判も」という記事に対し、疑問を投げていたのが、とくに見逃せない(氏自身のブログ「クオリア日記」2月26日付け。kenmogi.cocolog-nifty.com)。

 「いわば『国家』を上げてこの作品をエンドースしている、みたいなトーンで書かれている」この朝日の記事について「ツイターなどをソースにしている」に過ぎず、アメリカの新聞の論調で「朝日新聞の記事のような角度から論じたものを見つけることができなかった。」としている。

 なるほど『アルゴ』は1979年の在イラン・アメリカ大使館人質事件を題材にしている。だからといってホワイトハウスが、この作品をヨイショすることで、再度アメリカの国家的威信を誇示しようとしたなんて意図はなかったと思われる。

 茂木氏も指摘しているが、大方の予想通り作品賞が『リンカーン』に行ったほうが、ミッシェル・オバマというキャスティングははまったことだろう。

 小村信彦氏の先のエッセイによると、「オバマ大統領夫人を呼び出すのを考えていたのは、大物プロデューサー、ハーヴェィ・ワインスタイン(民主党支持者)の娘だという。」

 ハリウッド情報のなかには「ワインスタインと、その娘リリーのアイディアだった」というものもある。

 本年度アカデミー賞バックステージ賞(というのがあれば)の受賞者は、ワインスタイン親子ですかな。

当日のミッシェル・オバマ。
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