青島広志さんという音楽家がいる。作曲家で指揮者でピアニスト。お喋りも得意でコンサートの司会も務める。

 また週刊新潮に「ブルーアイランド氏のクラシック漂流記」という連載コラムを持っていて、毎回、歯に衣を着せぬ書きぶりでクラシック界の旧弊ぶりを槍玉に挙げている。私は毎週熱読している。

 とくに2月21日号の新作オペラ『KAMIKAZE-神風-』(作曲三枝成彰)製作裏話が、すこぶる暴露的?で興味深かった。

 簡単に要約すると、主役のテノールに予定されていたジョン・健・ヌッツオ(コラムではJ・健・N)が稽古途中で降板し、青島氏の愛弟子水船桂太郎(コラムではM)が代役に立ったものの、Jがまたのこのこ復帰した、その奇妙ないきさつについてである。

 青島氏曰く、三枝氏の書いたテノールのパートは「音取りが困難で、とても常人が歌える代物ではなく、高音を得意とするMさえも指揮者と相談して音を変更していた程である。これ故、本役のテノールは棄権したのだ。」

 なのにJが再登板すると言い出したらしい。再に青島氏の文章を引く。

 「公演は三日あり、チラシも変更されなかったから、Mは中日(なかび)一回だけ出演を言い渡され、しかも出演者変更は当日掲示という条件で一応決着が付いたらしい。そして初日二日前に、何とMは全く出演出来なくなったと言うのである。」

 『風神』の本番は、東京文化会館大ホールで1月31日夜、2月2日昼、2月3日夜と3回おこなわれた。たまたま私は、2日のマチネすなわち中日の公演を見に出掛けたのだが、席につきパンフレットを開けると、「二月二日出演水船桂太郎」とある。すべての楽屋事情を知らず、この日もジョン・健・ヌッツオのつもりでやって来ただけに、がっかりしないでもなかった。

 ところが、開幕直前、作曲者の三枝氏自身が登場したかと思うと、この日もジョンが歌うことになったので、水船のつもりで来場した客には払い戻しをするという“お詫び”である。

 当日は、いったいなにがどうなっているのと困惑するばかりだったが、青島氏の週刊新潮コラムを読んでなんとなくわかった気分になった。

 青島氏の言い分に対し、作曲者三枝氏はどう答える?

 肝心のオペラの出来はどうだったかって?それは言わぬが花かなあ。

 ちなみにこのオペラ、題名から察しがつくように神風特攻隊に題材を得たものである。

本公演のパンフレットです。
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