同じ芝居を見て私とでは評価がこんなに違うのか?

 福田和也氏が、『テイキング サイド~ヒットラーに翻弄された指揮者が裁かれる日~』について、連載コラム「世間の値打ち」(週刊新潮2月21日号)で総合点で90点をあたえ、次のようにベタ褒めしているのにびっくり仰天した。

 「行定勲の演出は、抜群の95点、平幹二朗と筧利夫のやりとりの迫力は脱帽の90点、シンプルながら機能的な舞台装置は85点。」

 私が採点すればどうなるのかは後回しにして、イギリスの劇作家ロナルド・ハーウッド(『戦場のピアニスト』の脚色でアカデミー賞)の戯曲そのものは、一流品である。

 世界的指揮者ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(平)は、第二次世界大戦中、実際にナチス及びヒットラーの協力者だったのか?それを米軍のアーノルド大佐(筧)が、本人を前に厳しく追及する。

 その対立の構造はドラマチックの一語に尽きる。

 しかし、筧の造形は凄みに欠け、平の科白は大時代なことはなはだしい。ふたりの間にどうして緊張感が生まれなかったのか。行定の演出に緊張の糸を張り巡らす意図がないからだ。

 装置は、ベルリンの廃墟をあしらいシンプルどころか大仰でさえある。

 もういちど言う。脚本は一級品である。同じく実在の大演奏家を題材にした『ホロヴィッツとの対話』(三谷幸喜作・演出)より軽く10倍は、スリリングで起伏に富んでいる。

 でも役者陣は三谷作品のほうがずっと上等だった(2月18日付け当ブログをお読みください)。

 ところで「テイキングサイド」の私の採点でしたね。演出55点、ふたりの演技60点、装置65点で総合点は60点ですかね。

 (東京公演は2月1日~11日、銀河劇場でおこなわれた。私の観劇日は9日夜の部)

 http://www.gingeki.jp/special/takingside/

初めての顔合わせの平幹二朗と筧利夫。パンフレットより。
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