頃合からすれば、街に「ジングル・ベルズ」や「ホワイト・クリスマス」があふれていてもいいのに、心なしか、いつもの年の瀬ほど聴こえて来ないような気がする。

不景気のせいか、衆議院議員選挙や東京都知事選の騒音(失礼!)に邪魔されているせいか?

ことし初登場のクリスマス・アルバムでは『ROD STEWART/MERRY CHRISTMAS,BABY』(ユニバーサル)が、なんとしても聴き逃がすわけにいかない一枚である。

理由を挙げる。まず第一。スチュワートは、見事『THE GREAT AMERICAN SONGBOOK』シリーズ5枚でジャズ、アメリカン・ポップスの伝統に新しい息吹を注ぎ込んで見せた。その実績からして、クリスマス・ソングを歌わせるのなら、今、もっとも旬の歌い手であること。

第二、あのデイヴィット・フォスターがプロデュースを手掛けていること。当然ながらゲスト陣も多彩を極める。クリスマス・アルバムとなれば勢い定番の曲目が並ぶことになるが、プロデューサーが仕掛けるあの手この手によって、新鮮な驚きが期待出来るのではないか。

第三。レーベルがジャズの名門Verveであること。当然のなりゆきとして本人初め参加者全員が、老舗ののれんを汚してはなるまいと心して仕事に取り組むにちがいない。

最大の目玉は、ジャズ・ヴォーカルの大御所エラ・フィッツジェラルド(1917~96)とのヴァーチャル二重唱「ホワット・アー・ユー・ドゥーイング・ニュー・イヤーズ・イヴ?」である。ロッドのしわがれ声とエラのすきのないしっかり目の声とが、絶妙にからみ合う。更にクリス・ボッティのトランペット・ソロが加わるとはまあなんと豪華な・・・。

エラとのこういう遊びが実現できるのも、ヴァーヴがジャズの宝庫だからだ。エラの元唄が入っている『スウィンギング・クリスマス』は1960年に制作されたものだという(大鷹俊一氏のライナーノーツ)。遙かなる時空を超えての、夢の二重唱!

ロッド、デイヴット・フォスター、エィミー・フォスター共作の新曲「レッド・スーツド・スーパー・マン」も聴きものである。サンタクロースをスーパーマンになぞらえるあたりに彼等のセンスのよさが光る。明るく賑やかでノリのいい曲調は、ポップスの王道を行くかのよう・・・・。

「星に願いを」はロッドのバラッド歌手としての才能満開。彼の歌心が私たちの胸に染みる。

ボーナス・トラック3曲を入れて全16曲。選曲・編曲・歌唱・演奏・綜合プロデュースのすべて文句のつけようがない。

ここで余談ひとつ。残念ながら私はロッドのライヴは聴いたことがないが、本人そのものをじっくり眺めたことがある。

ブロードウェイのLongacre劇場に評判の喜劇「Boeing -Boeing」を見に行ったとき、同じ列に彼がいたんですよ。2008年8月21日のことでした。背の高いすばらしい美女同伴だったけれど、彼女は、2007年に結婚した、六番目の夫人ベニー・ランカスター(モデル・写真家)さんだったのかしら?


このアルバムを聴けば、クリスマスが100倍楽しくなりますよ。
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また本日、ABE MUSICAL SCHOOL(劇団四季会報誌「ラ・アルプ」連載)
更新しました。こちらものぞいてみてください。
【第43回】『ジーザス・クライスト=スーパースター』(Ⅲ)
ティム・ライスの歌詞に宿るボブ・ディランの影