八代亜紀の「再会」、松尾和子の「再会」 | 安倍寧オフィシャルブログ「好奇心をポケットに入れて」Powered by Ameba

八代亜紀の「再会」、松尾和子の「再会」

 ジャズを主題にした八代亜紀の新アルバム『夜のアルバム』(ユニバーサル)に、いわゆる流行歌が四つ入っている。

 フォーク歌手りりィの「私は泣いています」(1974年)、ハワイアンの日野てる子らが競作した「ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー」(63)、ジャズから流行歌に鞍替えした松尾和子の「再会」(60)、ばりばりのジャズ歌手だった笠井紀美子の「ただそれだけのこと」(68)である。

 いずれも国産の流行歌(歌謡曲と呼んでもいい)だけれど、どこか洋楽の影響が感じられる。いわゆる歌謡曲臭を脱皮したいという作詞家、作曲家、歌手の思いが滲み出た歌ばかりなのだ。

 これらの曲の裏側には、伝統的な歌謡曲とは異なる新しい日本の大衆歌謡を作り出したいという作り手、歌い手の願望が、しっかりと込められている。それを嗅ぎとることはさほど難しいことではないと思う。

 そういうムーヴメントが日本の大衆音楽の世界にあったということでもある。J-POPに先行する60~70年代のそのような動きを忘れてはなるまい。

 という意味では、八代がジャズを前面に押し出したアルバムのなかにこれら四曲を収録したのはさほど間違ったことではないのだが、私は手放しに上出来じゃないのと褒める気にはなれなかった。

 とりわけ「再会」に関しては─。

 プロデューサー小西康陽さんが手掛けた編曲は、頭から軽やかなリズムを強調し、スマートだしいい気分にさせてくれる。

 しかし、歌が始まるとどうもいけない。どこか重いのだ。情感も作りものめいて聴こえて仕方なかった。

 私の手もとには松尾和子の歌った「再会」が二種類ある。60年、吹き込みのオリジナルと、80年、ロサンゼルスで録音した『松尾和子イン・アメリカ』(ともにビクター)収録のものである。

 松尾のヴォーカルは色も艶もある。しかし媚はない。オリジナルと20年後のアメリカ録音とに共通してひしひしと感じられる優れた特色である。

 佐伯孝夫作詞、吉田正作曲の「再会」は、ジャズではない。しかし、歌謡曲としての洗練を追求し、そのひとつの頂点を極めた傑作である。それがジャズ歌手として豊富な体験を持つ松尾の感性と自然に融合した。

 松尾和子(1935~1992)と八代亜紀(1950~)との間には15歳の年齢差がある。しかし、八代は松尾が急逝した際の年齢を超えた。そして今やヴェテラン中のヴェテランである。是非、松尾の遺産を受け継ぎ、それを次の世代に渡してもらいたい。その責務がある。(続く)


佐伯孝夫と吉田正の全集。オリジナルの「再会」は両方の全集に入っています
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