関容子さんを前にすると、名だたる俳優、脚本家も自分についてのすべてを話したくなるようだ。名エッセーストの関さんは、相手をリラックスさせ、真実、本音をさらけ出させてしまうインタビューの名手でもある。

 関さんの新著『舞台の神に愛される男たち』(講談社)で、まないたの鯉となった13人は、次の通り。

 柄本明、笹野高史、すまけい、平幹二朗、山崎努、加藤武、笈田ヨシ、加藤健一、坂東三津五郎、白井晃、奥田瑛二、山田太一、横内謙介。

 たくましく見えながら優し気、一癖も二癖もありながら渋め、そんな共通点を感じさせる人選じゃありませんか。

 ひとりひとりについて、随分いろいろな事柄を知ることが出来る。たとえば柄本明。生まれはかの聖路加病院、母親が歌舞伎ファンでとくに十四代目守田勘彌をひいきにしていた。演劇修業は金子信雄の「マールイ」に始まり、串田和美の自由劇場へ、唐十郎の芝居にも三本ほど出た。そして柄本が先生をつけて呼ぶのは三木のり平ただひとりだとか。

 途中で関さんが中村勘三郎から聞いた話が入り込んで来る。勘三郎、藤山直美、柄本が『浅草パラダイス』という芝居で共演したときの楽屋話だ。

 勘三郎曰く、
 「柄本が直美に訊(き)いてるの。お父様はいくつで亡くなられたんですか?って。六十一です。ああ、ずいぶん早く亡くなられたんですね、って。それで二十五日間昼夜昼夜休みなしの公演が終わるころになったら、また柄本さんが訊いてるの。あの、お父様はこういう舞台の生活をどのくらい続けられていたんですか?って。どのくらいって、何十年もですよ。ああ、ずいぶん長生きなさいましたね、って(笑)」

 一方、柄本自身こう語っている。
 「舞台で三人で並んで座ったりするじゃないですか。すると片方は先代中村屋の息子で、片方は藤山寛美(かんび)さんの娘でしょ。何でオレがここにいるんだろう、という気がしてきて、とてもついていけない、と思っちゃう。」

 私は、このふたつの談話から俳優柄本のどこかすっとぼけた味わい、屈折した役柄をも自然体で演じ切る表現力に思いを馳せずにいられなかった。

 そして、彼の個性、演技すべては日ごろの人間観察(自己観察も含めて)の賜物だということにも―。

 柄本の章はこの本の第一章です。まだほかに興味深いエピソード満載なので、もう一回、続きを書きます。
(続く)

http://www.bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2177129


読み始めたらとまりません。
安倍寧オフィシャルブログ「好奇心をポケットに入れて」Powered by Ameba