共演者のひとり鈴木綜馬が、MC(立花裕人)からSutton Fosterについて尋ねられ、
 「腰の位置が高いけれど、腰が低い」

 さすが今をときめくブロードウェイ女優だけに、踊りで鍛えた長身、スレンダーな肢体を誇るけれど、オフステージでは誰にでも気さくな親しみの持てる人柄だということだろう。

 このコメント、客席に爆笑の渦が巻き起こった。

 サットン・フォスター。映画女優ではなく舞台女優だから、日本での知名度は決して高くない。しかし、トニー賞主演女優賞に5回ノミネート、2回受賞の輝かしい経歴を持つ。

 受賞作は2002年の『モダン・ミリー』、11年の『エニシング・ゴーズ』。そんな旬の女優がブロードウェイからやって来たのだ。なのにミュージカル・ファンや関係者の間でさえ評判にならなかったのは、いったいなぜ?パブリシティ不足だったのかな。ああ、もったいない。

 彼女が出演したのは、『華麗なるミュージカル音楽の世界・ガラコンサート2012』(9月15~16日、新国立劇場中劇場)というステージである。
石井一孝、鈴木綜馬、玉野和紀、姿月あさと、シルビア・グラブ、保坂千寿など日本ミュージカル界切ってのそうそうたる顔ぶれのなかに、単身、飛び込んでの特別出演だった。

 まあ向う様が本家ですからね。

 フォスターは、『エニシング・ゴーズ』から「あなたが一番」「アイ・ゲット・ア・キック・アウト・オブ・ユー」「エニシング・ゴーズ」、『レ・ミゼラブル』から「オン・マイ・オウン」、『モダン・ミリー』から「ギミー・ギミー」を歌った。

 彼女、舞台に登場しただけでじゅうぶん華があった。

 歌はちょっと優等生的だ。色気と情感がもう少し欲しい。ただ、こちらの英語ヒヤリング能力が乏しいにもかかわらず、その歌の意味するところが、どうしてかちゃんと伝わって来る。

 歌詞の一行一行、一音一音が明晰なので、キーワードがキャッチしやすく、それと歌全体のムードから、これはこういう主題の歌なんだと当たりがつけられるからだろうか。

 つまり表現力の適確さが、聴く当方の勘を巧みに刺激してくれるんですね。

 完全にわかっているわけではないのに、わかった気分にさせてくれる――これはもう立派な芸であり、芸の力である。

 一曲だけとるとすれば『レミゼ』の「オン・マイ・オウン」か。見事、劇的で心に響く恋の歌になっていた。

 ショウの構成上では、ぽつんぽつんと彼女の出番があるのではなく、20分くらい彼女の出演場面を設定し集中的に歌ってもらいたかった。

 日本側出演者のなかでさすがと思わせたのは「マンマ・ミーア・メドレー」の保坂千寿である。手慣れたレパートリーなのに手抜きなし。

 主催 華麗なるミュージカル音楽の世界・ガラコンサート委員会。演出・振付玉野和紀、音楽監督・編曲宮崎誠、企画・構成坂元寿朗。


ガラコンサートのパンフレットから、フォスターさん。
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