JUJUのジャズ・ヴォーカルを生で聴いた。期待以上に真正面にジャズに迫まる腰のすわったライヴだった。8月16日、於Blue Note Tokyo。“JUJU JAZZ TOUR 2012~Delicious~”の東京でのステージである。

 ジャズではない音楽でブレークした彼女だが、名サックス奏者ウェイン・ショーターのアルバム『JUJU』にあやかってこの名前を名乗ったくらいだから、ジャズは彼女の原点であり土性骨でもある。

 そんな彼女が、今回が初登場ではないとはいえ、ジャズの檜舞台ブルーノートで歌うのだから、やや緊張気味だったとしても不思議ではなかったろう。しかし、それは決してマイナスにはならなかった。むしろそのテンションが歌うことへの集中力を増し、歌そのものを深めるという好結果をもたらしていたように思えた。

 「The Lady Is A Tramp」「Fever」「Lullaby of Birdland」「Summertime」とスタンダード曲中のスタンダードが並ぶ。どの歌に対しても小手先であしらったりする姿勢はこれっぽっちもない。旋律を、曲の構造を、歌詞は細部まできちんと見据えてとり組んでいる。

 もう少しJUJUなりの小味をつけたらと思わないところもないではなかったが、今は下手な小器用さは求めないほうがいいのかもしれない。

 「Candy」の可愛いらしさから「Calling you」の深遠さまで、彼女の情感表現力はかなり幅広い。そして「Quizas Quizas Quizas(キサス・キサス・キサス)」の軽やかなリズム感。JUJUはどの曲からどの曲へも軽やかに飛んでみせる。その振幅性というか飛翔感というか、それが私には心地よかった。

 歌に入る前の歌詞にやや立ち入っての解説も決して邪魔にならなかった。「Guess I Saw Today」は、夫が他の女性といるところを、妻が見てしまい、それを夫に告げるという内容なのだが、JUJUは、これを、
 「ねぇ、あなただったらどうする?」
 と身近な問題として客席に投げ掛けていた。

 こういうファンとの距離感のとり方はさすが手慣れているしうまいものだ。

 島健(音楽監督、ピアノ)率いるオクテットが、主役の引き立て役をつとめるかたわらバンドとしても独自の存在感を示しているのが嬉しかった。4人のブラス・セッションの豪快さと同じ4人のリズム・セッションの繊細さとが、なんと微妙なところで均衡を保っていたことか。

 さて、これからのJUJUの課題は?ジャズ・ヴォーカルを軸にしておとなのエンターテイナーとして、どう成長していくかにある。

 その素地はじゅうぶんに備えていると見た。


JUJUさんと島さんの2人。Blue Note Tokyoの楽屋で。
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