西麻布の「おそばの甲賀」へ行ったら、初夏らしい付き出しが顔をそろえていた。春キャベツのおしたし、クレッソンと揚げそばのサラダ、新じゃがいもと豚の角煮など。

 クレッソンと揚げそばのサラダが蕎麦屋の特色の出ている一品らしく思え、せいろの前に注文してみた。

 クレッソンの緑、揚げそばの茶と見た目の彩りが悪くない。香り、歯ざわりの点でもこのふたつの組み合わせはなかなか相性がよろしい。夜だったらビールのおつまみに向くだろう。

 それにしてもクレッソンが蕎麦屋の付き出しに使われるとは、、、、。世の中も変わったものだ。

 今時、クレッソンを知らぬ人はいないだろうが、私が若い頃はかなり珍しい食材だった。普通の家庭の食卓に載ることはほとんどなかったのではないか。

 私が初めてクレッソンのサラダを食べたのは1966年初夏のことだ。いつのことだったかはっきり覚えているのは、その味、香り、見たところすべてが新鮮だったからだろう。

 青山にあったレストラン「サウサリト」でのこと。店主が作りマダムがサービスする小体な店で、
 マスターが勝手に、
 「きょうはクレッソンのサラダとタルタルステーキがおいしいよ」
 と料理を決めて出して来た。

 ふたつとも初体験で痛く感動した思い出が残っている。

 その店主兼シェフは日本航空のパーサー出身だったから、その時代の並の日本人とは比べものにならないくらい海外経験が豊富で、私から見るととてもうらやましかった。

 彼の作る料理は、すべて海外のレストランで自分が味わったものの再現だったにちがいない。

 実はこのシェフ、のちに小説『堀の中の懲りない面々』(文芸春秋)で作家として売り出した安部譲二さんである。安部さんのホームページを開けると、「サウサリト」時代の彼の写真を見ることが出来る。

 今回はクレッソンつながりで、つい昔話になってしまい、、、、、。

http://www.abegeorge.net/photo/index.html



甲賀のクレッソンと揚げ蕎麦のサラダ。初夏らしい一品です。

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