フランク・シナトラ逝って14年、今日が命日 | 安倍寧オフィシャルブログ「好奇心をポケットに入れて」Powered by Ameba

フランク・シナトラ逝って14年、今日が命日

 1998年5月14日、ロサンゼルスで、フランク・シナトラがこの世におさらばを告げた。今からちょうど14年前のきょうのことだ。

 日本で最高の(もしかすると世界でも有数の)シナトラ研究家、三具保夫さんの『シナトラ Frank Sinatra; My Way of Life』(駒草出版)によると、シナトラの最後のひとことは「I am losing」だったという。

 20世紀のアメリカ・ショウ・ビジネス界のスーパースターは誰か?系譜的にはビング・クロスビー~シナトラ~エルヴィス・プレスリーの3人を挙げることが出来る。

 レコード、映画、テレビに股がり圧倒的な人気、実力を示し、他の歌手、俳優とは比べものにならない足跡を残した点で、この3人は図抜けている。

 それではこの3人のなかで誰がトップ?私はためらわずにシナトラを選ぶ。芸域の広さ、それに伴うファン層の幅広さで、他のふたりはシナトラの足もとにも及ばない。

 たまたま私は、この2、3日、きょうの命日を意識せず、彼のアルバム『Sinatra 80th』(EMIジャパン)を聴いていた。95年、80歳の記念に出されたアルバムだが、この年のレコーディングではない。87年のダラス、88年のデトロイトでのコンサートからのライヴ録音である。

 シナトラはライヴでこそその真価を発揮する。聴衆を前にした一発勝負、全力投球が最高の歌唱、パフォーマンスを生み出すのだ。

 このアルバムでの白眉は、ミュージカル『回転木馬』からの大曲「ソリロキー(Soliloquy)」である。遊園地の回転木馬の呼び込みビリーは、紡績工場の女工ジュリーと結ばれ、ほどなくして彼女から妊娠を告げられる。

 「ソリロキー」すなわち「独白」は11分14秒の長尺である。父になる喜びと不安に揺れる若い父親の心情が、オスカー・ハマースタイン2世(作詞)とリチャード・ロジャーズ(作曲)によって、こと細かに、かつ大胆に綴られている。

 ビリーは、生まれて来る子どもが男の子と決め込み、喜び勇んだ気持ちに浸る。しかし、ふと女の子だったらと気づき、ためらいながらも別種の喜びを隠せない。複雑な心理描写を要求される難曲だが、シナトラは見事に表現し切っている。

 ふたりのソング・ライターへの敬意も十二分に感じられる名唱といっていい。

 この繊細でしたたかな歌唱力はシナトラのみにあり、クロスビー、プレスリーにはない。

 「マイ・ウェイ」「ニューヨーク、ニューヨーク」だけでシナトラをわかっていると思ったら、大間違いである。



このアルバムで是非「ソリロキー」をお聴きください。
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