前回の続き、レコード・デビュー60周年を迎えたペギー葉山のことを。

 今回の記念CDシングルが「結果生き上手」「夢の坂道」のカップリングならば、デビュー・レコードの両面は「ドミノ」「火の接吻(キス・オブ・ファイアー)」だった。1952年11月、キングレコードからの発売で、もちろんSPである。

 すでに売れっ子のジャズ歌手で、本人が目指し、周辺も望んだのは日本のドリス・デイではなかったか。ふくよかな歌声、明るい性格はドリス・デイにぴったりだった。

 彼女のレパートリーには、当然、ジャズのスタンダード曲とヒット・パレードを賑わせていたポップス曲が並んでいた。「ドミノ」「火の接吻」とも全米ヒット曲だったから、ごく順当な選曲といえる。

 アメリカのレコードでは、「ドミノ」は大御所ビング・クロスビーにそれこそドリス・デイも歌っていたし、「火の接吻」はジョージア・ギブスのミリオンセラーだった。

 ところで、この2曲がともにアメリカ産ではないという点がすこぶる興味深い。「ドミノ」は1950年のフランスのシャンソン、「火の接吻」は1913年のアルゼンチン・タンゴ(原題名「エル・チョクロ」)なのだ。

 第2次大戦後のアメリカは世界の頂点に立っていた。とくにエンターテインメントについては王者だった。アメリカは世界中のいいとこどりが出来たし、他の国々はアメリカ目指して売り込みを掛けたことだろう。

 ペギーは、「ドミノ」は日本語歌詞のみ、「火の接吻」は英語日本語のチャンポンで歌っている。訳詞は両方とも音羽たかし。

 1992年制作の『ありがとう すてきな歌たち/ペギー葉山大全集』(キング)の第1枚目に、この2曲が収められている。「デビューの頃の歌声」というサブタイトルとノイズの状態からして、音源はデビュー時の録音と思われる。

 当時、ペギー葉山はまだ成人に達していなかったはずだが、伸びやかで色艶のある歌声、背伸びしない自然体のおとなの表現が、すでに身に備わっている。

 このスタートあればこそ、それからのすべてと60年後の今日がある。


http://peggy.sunnyday.jp/


このCDで「ドミノ」「火の接吻」を聴くことが出来ます。
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