天皇、皇后両陛下の短歌の先生(歌会始選者・宮内庁御用係)、岡井隆氏の自伝『わが告白コンフェシォン』(新潮社)を読んで、思い掛けず皇室に親愛の情を抱いてしまった。

 「先日、皇后陛下の御誕生の祝賀パーティーでお会いしたとき、美智子皇后が『わたしたち(陛下とお二人のことを指す)は、さあこれから岡井さんしよう、といって歌を作るのですよ』と、おもしろく有難いジョークをおっしゃっていた」

 あるいはまた、
 「わたしのご進講のときには、つねに、皇后がまずおひとりでお出ましになり、歌をお示しになる。肉筆で、原稿用紙にお書きになったものをお示しになる。皇后陛下のご進講がすんでから、しばらく待って、今度は天皇陛下がお出ましになるのが、通例である。天皇は、今回は、苦吟された。しかし、出来上がったものは、やはり、規矩正しく出来上がっていた。動詞などについて、こまかく別案もお示しになり『どちらがいいでしょうね』とおたずねになるのであった」

 両陛下のお人柄が手にとるように浮び上がって来る文章でしょう。

 実は私は、皇室のことが知りたくてこの本を読んだわけではない。当年とって84歳の大歌人の、もてもて人生に興味を持ったからだ。

 二度の離婚暦、このあと愛人もいて、今はヤング・フラウ(新妻)と呼ぶ32歳年下の夫人と睦まじく暮しているというのだから、恐れ入る。

 しかも20年に及ぶストーカーもいたらしい。この件ではなんども裁判があった。

 このような激しい女性遍歴を繰り返して来た歌人を両陛下の和歌の先生にお迎えするなんて、皇室関係のどこのどなたがなさったか存じませんが、随分と粋な計らいじゃありませんか。



女性遍歴、宮中、そしてもちろん短歌の話題も。
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