異国の街へ行っても、つい本屋、CDショップに足が向き、ふらふらっと入ってしまう。東京での習慣をそのまま持ち越していると見える。

 3月下旬、香港に出掛けたときもそうだった。まずCDショップで興味をそそられるアルバムをふたつ見つけた。ひとつは映画『アーティスト』サントラ盤でDVDとの2枚組みである。DVDのほうはサウンドトラックを録音した際の演奏風景が収められている。

 もうひとつは『ウディ・アレン&ラ・ムジーク』CD2枚組み。『マンハッタン』『ハンナとその姉妹』から最新作『ミッドナイト・イン・パリ』まで、一連のアレン作品で使われた名曲名演奏が網羅されている。
 『ブロードウェイと銃弾』『メリンダとメリンダ』『スコルピオンの恋まじない』などでデューク・エリントン・オーケストラが使われていることがわかり、アレンのエリントン好きが確認できる。

 本屋で見つけたのは、ニューズウィーク特別号『ザ・ビートルズ!』。100頁に満たない冊子だが、同誌のライブラリーから選りすぐった写真で埋め尽くされている。

 記事、図表も多彩で、とくに私は「ザ・セッション」という見開き頁に興味を持った。63年の「ラヴ・ミー・ドゥー」から69年の「アイ・ミー・マイン」までの全曲について、レコーディング、ミキシングにどれだけの日数を要したかが、一目瞭然で理解できるようグラフ化されている。

 もちろんレコーディングとミキシングが同時進行でおこなわれた曲もあり、それはそれできちんと表示されている。「ラヴ・ミー・ドゥー」は初めから同時進行、完成まで3ヶ月掛かった。「ホールド・ミー・タイト」は録音はすぐ終わり、ミキシングに7ヶ月以上費やしている。
 とくにアルバム『レット・イット・ビー』は難産だったようだ。ミキシングに1年以上要した曲がずらり並んでいる。

 こういう一覧表を前にするとビートルズにくわしい人は格別の感想が湧いて来ることだろう。いや、この表自体、ビートルズ狂でなくては作れまい。

 話を『アーティスト』サントラ盤に戻す。スクリーンから離れルドヴィック・ブルース作曲の音楽だけを聴いてみて、彼の音楽がトーキー以前のハリウッドに材をとったこの映画に、実に巧みに寄り添っていることが、改めて感じられた。ノスタルジックでありながらノスタルジックに陥っていない。じゅうぶんライヴリー感があり、浮き浮きした気持を味わうことができる。

 映画の主人公の名前を冠した「ジョージ・ヴァレンタイン」のリズミカルで軽快なこと!いちどで印象づけられる。

 以上3点、日本のお店にも置いてあるのかもしれないが、たまたま私は香港で見つけ、とても得した気分にひたっている。(ORICON BIZ 4/19発売号より転載)


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香港で買ったアルバム2種。
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ORICON BIZに月1回BIRD’S EYE(鵜の目、鷹の目、安倍の目を魅きつけた音にまつわるエトセトラ)というコラムを書いています。1988年8月以来の長期連載で2009年8月までは月2回でした。私のHPにUPして来ましたが、このブログにも転載します。過去の回にご興味の方は本ブログ冒頭の安倍寧Official Web Siteをクリックしていただきたく。