原題『ブッチ・キャシディとサンダンス・キッド』。この題名じゃ日本では当たらないと『明日に向って撃て!』(1970年公開)に変更された。もしこの邦題名でなかったら、ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード主演のニュー・シネマの傑作も、とっくの昔に忘れ去られていたかもしれない。

 この映画史に残る題名をひねり出したのは、当時、20世紀フォックス日本支社の若手宣伝マンだった古澤利夫さんである。

 今や映画業界歴46年あまり。宣伝・配給及び企画・製作に係わった作品747本を数える。

 『スター・ウォーズ』のシリーズ6作、特別篇3部作すべての宣伝に携わったキャリアの持ち主は、世界中で古澤さんひとりしかいない。彼がフォックスをやめたのちも、ジョージ・ルーカス監督自らの頼みで『エピソード3 シスの復讐』の宣伝を受け持った。

 その古澤利夫さんが『明日に向って撃て!ハリウッドが認めた!ぼくは日本一の洋画宣伝マン』(文春文庫)という著作を刊行した。単行本からでなく、いきなり文庫からの出版に驚いたが、ひとりでも多くの人に読んでもらいたいからだという。

 値段も933円+税と千円以下に押さえてあるが、中身は濃く、574頁ぎっしりハリウッドと日本の両方に股がる秘話が詰まっていて、面白くて為になる。この値段でこんなに得する気分にさせてくれる本はそうないだろう。

 たとえば古澤さんは、『スターウォーズ』シリーズが映画界に革命をもたらした事柄について、こう説明する。1特撮、2音響、3デジタル撮影、4興行形態(夏休み映画という発想を初めて打ち出した)、5マーチャンダイジング(2011年までに総売り上げ3兆円)、6自由な映画作り(第1回目のみフォックスの全額出資だったが、それ以降はメジャー・スタジオからくちばしを入れられない製作システムを確立した)。

 こういう人物の、こういう内容の新刊本だから、その出版記念会も誠に盛大だった。去る4月5日、帝国ホテルでおこなわれた古澤さんの文春文庫『明日に向って撃て!』出版を祝う会くらい、人、人、人の波と渦にあふれたパーティーはそうないのではないか。参会者は800人を超えたのでは。

 この日の答礼のスピーチでも強調していたが、古澤さんによれば映画宣伝の要締、すなわち作品をヒットさせるコツは、人と人との繋がりをいかに大切にするかに懸かっているという。

 出版記念会のこの盛会ぶりこそ、彼自身がいかに人間関係に心配りをして仕事をして来たかを物語るいちばんの証しのように思われた。




出版記念会会場入口で古澤利夫さん(右)と作家小林信彦さん。
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