久しぶりに生で雪村いづみのジャズ・ヴォーカルを聴いた。3月27日、於六本木・スイートベイジル139。ヴェテラン・テナー・サックス奏者稲垣次郎率いるセッションへの特別参加である。

 どの歌にもパワーがみなぎっていた。ゆるぎないプレゼンス。そして何より声に張りがあった。1週間前に75歳の誕生日を迎えたとは思えない。

 「ジャスト・イン・タイム」「アゲイン」「ビコーズ・オブ・ユー」「恋人よわれに帰れ」「陽の当たる通りで」など、どれをとっても長く歌って来た曲ばかりだから、十分、自分のものになっているということもある。手だれで当然。むしろ驚くべきは歌にカビ臭さがないことだ。

 一時期、雪村はスタンダート・ナンバーを歌ってもどこかカマトト風といおうか、鼻に掛かった歌いぶりで、妙な甘ったるさを強調するふしがあった。それが消えてなくなったのが嬉しい。

 この日の雪村は、どの曲に対しても真正面から切り結ぶスタンスで歌っていた。ジャズ・ヴォーカルの王道を突き進むといった意気込みさえ感じられたくらい。

 「メモリー」は初めて聴いたが、この曲独自の哀切感が滲み出ていて胸を突かれた。この名曲の透明度、柄の大きさをここまで表現できる歌手はそういない。

 出だしの「ジャスト・イン・タイム」でリズムが合わず、ベース奏者に「ごめんなさい」とあやまった上、歌い終ってからも「“ジャスト・イン・タイム”じゃなかったわね」とひとこと。

 こういう軽妙なジョークがその場の雰囲気をなごませるのに大いに役立つ。若いとき、ショウ・ビジネスの本場アメリカで数々の舞台を踏んだ体験の賜ものか。

 私は、1953年以来、いづみの歌を聴いて来たが、今の彼女がもっとも高揚し充実しているように思える。

雪村いづみはこれからが“旬”かもしれない。



熱唱する雪村いづみ。
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なかなかの貫禄でしょう。
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