「Where Or When」、すなわち「いつか何処かで」。1937年にアーサー・ローレンツが作詞し、リチャード・ロジャース作曲したスタンダード・ナンバー中のスタンダード・ナンバーである。

 男と女は、たった今、初めて顔を合わせたばかりなのに、昔、どこかで会ったようなデジャヴュ(既視)感に囚われている。既視感ほど恋によく効くスパイスはない。ふたりのロマンスはもう一気に進むしかない。そんな先ゆきも予想させる名曲だ。

 私たちジャズ好きは、かつてこういうヴォーカルものを“ジャズ小唄”と呼んでいた。甘くてもの哀しくて、、、、でもそのいずれもが過剰ではない。究極の粋が凝縮したこのような歌は“小唄”という呼び名こそふさわしい。

 『Chiemi + JAZZ』(キングレコード)で、江利チエミの歌う「いつか何処かで」を初めて聴いた。昭和31年(1956年)11月14日の録音。豪華なストリング・セッションをバックにチエミはこの恋の歌をしっとりと歌い上げている。はたち前の小娘とは思えない情感がある。

 コンボで小粋にという手もあったろうが、絃入り悪くないし、何より日本語と英語のチャンポンの歌詞をうまくこなしている。日本語で歌い出し、英語に渡すその呼吸に思わずハッとなった。

 このアルバム収録曲は全26曲。いちばん古い録音が昭和28年(1953年)5月22日の「サイド・バイ・サイド」。チエミがわずか16歳のときの吹き込みである。軽やかなテンポに乗った歌いぶりで、聴いているこちらの気持ちも自然に浮き浮きして来る。

 ちなみにいちばん新しい録音は昭和47年4月18日の「恋はフェニックス」「アルフィー」である。

 しかし、やはり聴きものは十代の歌唱だろう。なんという色艶のある声、歯切れのいいリズム感、スケール感のある節回し―彼女がいかに天性の歌手だったか、たちまちのうちに理解できるというものだ。

 もとの録音はほとんどがモノラルだが、今回のアルバム自体は、一般CDより高音質化を目指したSHM-CD仕様なので、望み得る高音質で楽しめるのではなかろうか。

 聴いていると、亡きチエミが見事に復活、今、私の目の前で歌っているような錯覚に囚われる。
 江利チエミは不死鳥だ。


http://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICJ-629/


江利チエミのジャズ・ヴォーカル全開です。
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