お蕎麦とお蕎麦屋さん(全国98軒加盟)のPR誌「新そば」最新号に、著名な建築家隈研吾さんが実に興味深い“蕎麦論”を書いている。題して「線的なものと身体」。私なりに要約してみますよ。

 まず食べものと建築はパラレルである、したがって料理人と建築家は共通点が多いという論理を展開する。物質(すなわち食材あるいは建築の材料)を「どう切り分け、どう熱を加え、どのようにして並べるか」という点で、両者は「基本的に同業者」にほかならない。

 その延長線上で隈さんは自身を「塊の建築家」「面の建築家」ではなく「線の建築家」だと認識しているという。コンクリートの塊より格子状のルーバーが好きなのだそうだ。

 そんなわけで食についても牛肉の塊より蕎麦という嗜好性が発揮されることになる。

 蕎麦とルーバーは塊ではなく線である。同時に米粒、レンガのような小さな単位の素材とも異なる。米粒はくっつき合って「塊と化しやすい」し、レンガも「壁という塊に収束しやすい」からだ。

 隈さんが蕎麦を好むのは、蕎麦そのものの味にプラスし、だしが蕎麦の表面ないし蕎麦の作り出す回りの隙間にからみ、「微妙な味覚の重層性をかもしだす」からだ。
 そこで隈さんは勇敢にも次のように断定する。
 「この味覚の重層性もまた、われわれがルーバーを使って獲得しようとしている空間の重層性と同質である。その豊かな二重性ゆえに、僕はルーバーを建築に多用し、ソバを暴食している」と。

 ところで数年前、隈さんはソバチェアという名称の椅子をデザインした。すでにイタリアにスパゲッティチェアと呼ばれる椅子があるが、スパゲッティを模したチューブが横を向いているのが気に入らず、チューブが縦の線で流れるソバチェアを作ったのだそうだ。

 隈さん曰く。
 「軽やかで身体にやさしい椅子である。この椅子に腰かけながら、ソバのことを考えている」
 お洒落だなあ。

 そういえば、隈先生は、建築素材として細くて長い竹もお好きなんですよね。次回は竹でソバチェアを―。呼び名はyabu(藪)でいかがでしょう。


http://www.meiten-net.com/soba/info_soba/index.php

隈さんのソバチェアーです。
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隈さんの代表作のひとつ根津美術館のアプローチ。
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