ことしのアカデミー賞授賞式もWOWOWが同時中継してくれたので、テレビの前に釘づけになってしまったが、スタジオでのゲスト・コメンテーターとして脚本家・演出家の三谷幸喜さんが出演したのが、思い掛けない楽しいおまけだった。

 三谷さんはイラストレーターの和田誠さんと並ぶハリウッド通ですからね。去年は、ナチス・ドイツの宣伝相でハリウッドに強いあこがれを抱いていたゲッペルスが主人公の傑作喜劇『国民の映画』で評判をとっている。そして何より、本人が映画監督としてもヒット・メーカーであることを忘れてはならないだろう。

 日本時間でのアカデミー賞当日の2月27日夜、帝国ホテルでおこなわれた読売演劇大賞授賞式兼パーティーで、三谷さん当人と顔を合わせる。『国民の映画』が最優秀作品賞に選ばれたからだ。

 会場でモテモテの彼とあわただしく立ち話をする。
 「きょう午前中、ずっとWOWOWを見てましたよ」
 「『アーティスト』の映画監督がビリー・ワイルダーの名前を三度も叫んでいたでしょ」
 「あそこ、凄かったですよね」

 作品賞、監督賞を含め5部門の栄冠に輝いたこの作品のミシェル・アザナヴィシウス監督が、なんと謝辞の締めで、「3人の人たちにお礼を云いたい」と前置し、「ビリー・ワイルダー!ビリー・ワイルダー!ビリー・ワイルダー!」と連呼したのである。

 サイレント映画を題材にした『アーティスト』が、同じ時代を扱ったワイルダー監督の『サンセット大通り』に大いに影響を受けたであろうことは、すでに2月23、24日の当ブログでも指摘しておいたが、それが計らずも証明されたかたちである。

 三谷さんは、知る人ぞ知る大のワイルダー狂である。この監督が得意分野とした人情喜劇『お熱いのがお好き』『アパートの鍵貸します』などから多くのことを学んだにちがいない。

 アザナヴィシウス監督の連呼に注目しないはずがない。

 三谷さんは助演男優賞受賞者クリストファー・プラマー(『人生はビギナーズ』)にも触れ、このヴェテラン俳優をリスペクトした己まない風情だった。

 朝日新聞連載エッセー「三谷幸喜のありふれた生活」(3月1日付け)では、この俳優についてこんなふうに書いていた。

 壇上で、手にしたオスカー像を見つめて「今までどこにいたんだい」と嬉しそうに微笑む姿は、まさに千両役者といった感じ。

 ちなみにアカデミー賞はことしで84回目、クリストファー・プラマーは当年とって82歳だという。両者はほぼ“同い年”ということになる。

 三谷さんは、朝日のエッセーで「僕は生放送のコメンテーターには向いていない。頭の中では、抜群のコメントが浮ぶのだが、短い時間の中でうまく整理して話すことが出来ない」と反省しきりだったが、そうおっしゃらず来年も出演し、ハリウッド通のところを見せてくださいよ。




読売演劇大賞にて。
右から三谷幸喜さん、大竹しのぶさん(最優秀女優賞)、小日向文世さん(最優秀男優賞)、中津留章仁さん(優秀演出家賞)。
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