いよいよアカデミー賞が間近になった。作品賞の呼び声高い『アーティスト』は栄冠を手にすることができるか。

 ところで、きのうUPしたコラムのなかでこの作品と往年の名画『サンセット大通り』との比較対照を試みたけれど、言葉足らずのふしもあったので補足します。

 『アーティスト』の主人公は男優である。大スターとしてサイレント時代のハリウッドに君臨していた。かたわら袖振り合うも多生の縁で知り合った女優の卵に目を掛けてやったりしている。

 トーキーという新技法と彼の演技スタイルが合わず、男は落ちぶれていくが、小娘のほうは新時代に適合しめきめき頭角を現す。妻に逃げられ、淋しく小犬と暮すもとスター。昨今は家具や美術品の売り食いである。今や新進女優として売れっ子になった彼女は、密かにオークションでそれらの品々を落札していた、、、、。

 一方、『サンセット大通り』は、サイレント時代の大女優の物語である。彼女もオーヴァー・アクションがたたってかスタジオからのお呼びがない。ただし、かなりの蓄財があり、往年の名監督を執事にし豪邸に住んでいる。

 ある日、借金に追われた青年シナリオライターがその豪邸に過って逃げ込んで来た。その若者をお抱え脚本家にし再起を計る大女優。鬼気迫まる形相でこの大役を演じるグロリア・スワンソンは一見の価値あり。

 青年脚本家が彼女に面と向かって、
 「あなたは、昔、大女優だった」
 とその時代遅れぶりを皮肉ると、女優は胸のすくような啖呵で云い返す。
 「今もそうよ。小さくなったのは映画のほう」

 私はここのやりとりが大好きだ。

 『サンセット大通り』はふたりの恋?の破綻、彼の不慮の死で幕を閉じる。片や新作『アーティスト』はハッピーエンドである。往年の男優は見事復活を遂げる。もちろん彼女の手助けもあって、、、、。どういう手で彼はカムバックできるのか。それを明かすのはミステリーの結末をばらすようなものでしょう。

 なんともお洒落で心暖まるエンディングになっているということしか申し上げられない。

 きのうの繰り返しになるが、特筆すべきは『アーティスト』というサイレント時代に材をとった映画が、ほぼ全篇、サイレントの技法で撮影されていることである。最後の2、3分を除くと、すべての科白は一枚々々の字幕で伝えられる。

 つまり俳優たちの科白はひとことも聞こえて来ないってことである。ただし音楽だけは鳴っている。確かにサイレント時代でも上映に際しては生の楽団が生の伴奏をつけていたわけだから、BGMは許されるっていう理屈かな。

 片方は主人公が男性スター、もう片方は女性スター。それぞれ若い相手がいるが、片方はロマンスが成就し、もう片方は悲劇に終わる。役者としても片や復活、片や決定的没落で幕。同時代を扱っていながら、なにかにつけて対照的なのが興味を引く。ただし二作ともモノクロームである。

 『アーティスト』の公開はまだちょっと先になるので、『サンセット大通り』を未見の向きはまずこちらからDVDでいかがでしょう。


『サンセット大通り』
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=9281 (allcinemaより)
http://asa10.eiga.com/2012/cinema/218.html (午前十時の映画祭より)

『アーティスト』公式HP 
http://artist.gaga.ne.jp/


スター俳優とわんちゃん。この犬が演技賞ものです。
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彼のフロックコートを抱きしめる若き女優。このシーンがとても切ない。
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