江利チエミ31回忌法要に出席してから、彼女の「テネシー・ワルツ」が改めて気になり始め、いろいろなヴァージョンで聴き直している。YouTubeで、1952年1月発売の最初の吹き込みも聴くことができるが、曲いっぱいにあふれる彼女の精気の、なんと新鮮で力強いこと!

 チエミは、キングレコードのテストに受かる前、米軍キャンプ内のショウに出演していたが、徐々に兵士の間に彼女のファンが生まれ、アメリカから届いたレコード、楽譜をもらうようになった。そのなかにパティ・ページの「テネシー・ワルツ」もあって、どこかのレコード会社に入れたらこれを歌おうと心に決めていたという。

 パティの「テネシー・ワルツ」は、1950年の全米超ヒット曲である。『Million Selling Records』という歴代ヒット曲記録本によると、レコードの売り上げが楽譜の売り上げを上回った最初の曲と書かれている。この曲以前はミュージック・シートがSPレコードより売れていたというわけですね。なお、この曲のレコードに関しては67年までに600万枚以上のセールスが記録されている。

 ネット上での江利チエミの「テネシー・ワルツ」をめぐるさまざまな議論のなかには、チエミが米軍兵士からプレゼントされたのは、同じ曲でもジョー・スタッフォードの歌ったものではないかという意見もある。

 ペイジとスタッフォードとふたつの吹き込みを聴きくらべてみると、前者はふっくら情感たっぷり、後者は男性ヴォーカルに近く、いい意味での野太さがある。チエミの声質はペイジよりスタッフォードに近いし、チエミが学ぼうとすればスタッフォードのほうが学びやすかったと考えられなくもない。

 この問題を解明するには、チエミ以前に吹き込まれたペイジ盤、スタッフォード盤を確実に入手する必要がある。とりあえず私が比較検討のために試聴した彼女たちのものは、録音年月日の確認がとれていないからだ。

 パティ・ペイジより2年早い48年、カントリー&ウェスタン歌手カウボーイ・コーパスがレコーディングし、そこそこ売れている。チエミがもらったのがこの盤だった可能性もあるのでは?

 連想は連想を呼ぶのだが、チエミも当時の関係者もあの世へ行ってしまった今となっては、事実の突き止めようもない。しかし、ヒット曲誕生の秘密に思いを馳せるのは、スリルに富み興味深いことではなかろうか。




「テネシー・ワルツ」が聴けるパティ・ペイジのアルバムです。
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