1月31日の当ブログで『CHESS IN CONCERT』(東京公演、1月26日~29日、青山劇場)について、率直な寸評を述べましたが、少しばかり補足しておきたいと思います。

 この公演のいちばんのポイントは“イン・コンサート”という点にあるんですね。『チェス』なら『チェス』というミュージカルをこの型式で上演するというのは、本来どういうことなのか。その特色を列挙します。

 そのミュージカルを全篇丸ごと上演する。
 会場は、できれば劇場ではなくコンサートホール。
 オーケストラはできる限りシンフォニックオーケストラでありたい。
 オケはピットに入るのではなくステージ上に載っかる。
 出演者は、歌詞に伴う表情はともかく、全身的演技はなるべく避けたい。
 つまり各出演者は楽曲に全力集中するということ。
 装置・衣装は極力なしにする。
 演出も、物語の進行上、最小限必要な分にとどめたい。

 端的に云えば、そのミュージカル作品の音楽的部分(当然、個々の楽曲、器楽演奏両方を含む)をとり出して最大限に表現するということです。逆に云うとこの目的を第一とすれば、先に述べたような特色がおのずと前面に出て来るというわけなんですね。

 でありながら、あくまでひとつのミュージカルの丸ごと上演ですから、ストーリーが明確に客席に伝わることが必要になります。

 オペラでは、サントリーホールでちょくちょくおこなわれるホール・オペラと呼ばれる公演が、まさにこれに近いかもしれません。

 『CHESS』は、ロンドンでの初演以来、演出家に恵まれない点で不幸な作品です。しかし、コンサート型式上演では大成功を収めて来ました。演劇的特質より音楽的特質が勝っているという見方もできるでしょう。

 ミュージカルでコンサート型式がよく似合うのは、スティーヴン・ソンドハイムの一連の作品です。さまざまなCDが出ています。映像化されているものもあります。

 それこそロンドン・ロイヤル・アルバート・ホールでの『CHESS IN CONCERT』は、『チェス』ファンならば必見でしょう。

 逆に同じミュージカルでもコンサート型式に向かないものとなると、とっさに『マイ・フェア・レディ』とか『屋根の上のヴァイオリン弾き』が思い浮かびます。名曲がいっぱい詰まっているけれど、演劇的過ぎるのでしょうか。

 『ウエスト・サイド・ストーリー』は、レナード・バーンスタインの音楽性が顕著なせいかイン・コンサート向きで、世界中でしばしばやられています。私がCDで聴いたものでは、『ドリームガールズ』がR&Bのコンサートのようで迫力満点でした。

 念のために申し添えますが、ミュージカルのコンサート型式上演は、ミュージカル俳優が得意の楽曲を披露するワンマン・ショウとは違うし、特定の作詞家作曲家にスポットを当てたアンソロジー(詞華集)的な舞台とも異なります。

 くどいようですが、ひとつのミュージカルを丸ごと上演する、しかし演劇的ではなく音楽的に―これが“イン・コンサート”なのです。

 荻田浩一演出・訳詞・上演台本の『CHESS IN CONCERT』は、“IN CONCERT”と銘打ったわりにはその美質が表に出ていませんでした。ちょっと残念です。



本公演のパンフレット。
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ロンドン版イン・コンサートのDVDです。
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