戦前の昭和に花開いたスウィング・ジャズ | 安倍寧オフィシャルブログ「好奇心をポケットに入れて」Powered by Ameba

戦前の昭和に花開いたスウィング・ジャズ

 お正月休み、いろいろなアルバムを聴いた。とくに感銘深かったのは、『スウィング・ガールズ』と『スウィート・ボイス』というそれぞれ2枚組みコンピレーションである。前者は1935~40年のテイチク音源、後者は34~42年のキングとタイヘイ音源に基づく、日本人歌手による舶来音楽の集大成といったらいいだろうか。へーぇ、昭和一桁代、十年代にこんなお洒落でセンスのいい音楽が巷に流れていたのかと、改めてびっくりさせられる。

 ともに、昨年11月からスタートしたビクター、コロンビア、テイチク、キング4社の合同企画“ニッポン・モダンタイムス~日本のスウィング・エラ1928~1942”の一環として発売されたものだ。

 テイチク盤のほうには川畑文子、ベティ稲田、轟夕起子、キング・タイヘイ盤のほうには林伊佐緒、松島詩子、市川春代らの歌声が収められているが、滑らかで艶のあるのどを競い合っていて、戦前の日本の大衆歌謡がいかに高い水準だったか、改めて確認することができる。

 今、挙げた歌手たちはいずれも当時のトップ・スター級の人たちで、私くらいの世代だとよく知っている。しかし、この2枚のコンピレーションのなかには名前も歌声も初めてという歌手も含まれている。不勉強でチェリー・ミヤノ、ロジャー・ミヤノは名前さえ聞いたことがなかった。

 このシリーズの総監修者で音楽評論家の最長老、瀬川昌久先生には、つとに「日本のジャズは戦後に米軍によってもたらされたものではない。戦前、花開いていた」と指摘されてこられたが、その事実がこれらのアルバムによって裏付けされたことになる。

 たとえば松島詩子が歌うコール・ポーターの「夜も昼も」を聴いてみるといい。ヴォーカルも楽団演奏も、見事、1935年(昭和10年)の録音とは思えない清新なモダニズムにあふれている。とくにバック・バンドのスウィンギーなこと。日本語歌詞もリズムによく乗っている。

 ふたつのコンピレーションからおのずとうかがい知れる事柄で興味深いのは、当時はジャズやスウィングといっても、そのなかにタンゴ、シャンソンなどあらゆる欧米のポピュラー音楽が含まれている点である。戦後、ジャズ・ヴォーカルの大御所として活躍した水島早苗が、タンゴ中のタンゴ「ラ・クンパルシータ」を吹き込んだりしているのだから。

 舶来ものだけでなく純国産品も聴くことができる。たとえば作詞野村俊夫、作曲大久保徳二郎、編曲杉原泰造、歌轟夕起子の「あの日あの時」である。スウィングに触発されつつ、なんとか日本のオリジナルを作りたいという意欲が滲み出ている。これぞJ-POPの原点ではないか。(ORICON BIZ 1/23号)


話題の2枚です。
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ORICON BIZに月1回BIRD'S EYE(鵜の目、鷹の目、安倍の目を魅きつけた音にまつわるエトセトラ)というコラムを書いています。1988年8月以来の長期連載で2009年8月までは月2回でした。私のHPにUPして来ましたが、このブログにも転載します。過去の回にご興味の方は本ブログ冒頭の安倍寧Official Web Siteをクリックしていただきたく。