昨日、紹介した飯嶋和一氏のエッセイに触発され、パット・ブーンが懐かしく思い出されたので、改めて彼のヒット曲「アイル・ビー・ホーム」(1957)、「砂に書いたラヴレター」(57)、「四月の恋」(58)を聴いてみた。

 ヴェトナム戦争が始まる前の“よき時代”のアメリカをそっくり“反映するかのような屈託ないアメリカン・ポピュラー・ソングである。

 まさに「オールディーズ・バット・グッディーズ」(なつメロだけどいいじゃないか)の典型である。歌いぶりに陰影がないため、深みに欠けるのが難点だが、、、、。

 50年代は白人によるR&Bが流行した時代である。この時代の音楽にくわしい亀渕昭信さんは、その著書「亀渕昭信のロックンロール伝」(ヤマハミュージックメディア)でパット・ブーンについて次のように記している。

 「砂に書いたラヴレター」「四月の恋」などのヒット曲や、一時は日本でもエルヴィス・プレスリーと並び称される人気者だったパット・ブーンもデビュー当時は立て続けにR&Bを歌っていた。日本でのデビューヒット「アイル・ビー・ホーム」も、R&Bグループ、ザ・フラミンゴスのヒット曲をカヴァーしたものだ。

 もと「オールナイトニッポン」のパーソナリティーで、ニッポン放送社長も務めたことのある亀渕さん(現在はポピュラー音楽研究家の肩書きを名乗って活躍中)は、更に次のように書いている。

 服装や歌唱法も荒々しい不良少年のようなエルヴィス・プレスリーとは対照的。大学出の優等生、家柄も良く、歌い方もまとも、清潔でサッパリしたファッションが売りもののパット・ブーン、時には下品と感じるオリジナルの歌詞の一部を、クレームのこないように手直しして歌うこともあった。

 通称カメちゃんこと亀渕昭信さんのこの著書には“ビートルズ以前の僕はドーナッツ盤に恋をした”というサブタイトルがついている。

ドーナッツ盤とは45回転ビニール・レコードで、盤の真ん中に大きな穴があいていてドーナッツのように見えるところから、こう呼ばれるようになった。収録時間わずか8分。

 1960~70年代のポップス、ロックンロールのヒット曲は、すべてこのドーナッツ盤から生まれたと云っても云い過ぎではない。

 亀渕さんの本は、ドーナッツ盤の台頭、隆盛、滅亡を描いて誠に興味深い。もちろん、その滅亡をもたらしたのは、33 1/3回転のLP、更にはCDである。

パット・ブーンに象徴される“古きよき時代”の郷愁に浸りたい人、あの時代をまったく知らないけれど知りたいと思う人は、是非、この本を―。

 カメちゃんについてもっと知りたい向きは、今、発売中の文芸春秋新年特別号グラビア頁“小さな大物”をご覧ください。彼の幼少期から近影まで3頁にわたって紹介されています。



この本、なかなかの名著です。
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