歴史小説の売れっ子作家の飯嶋和一さんが、12月17日付け日経夕刊の随筆欄“プロムナード”に「ザ・クリスマス・ソング」という一文を寄せていた。

 随筆の表題「ザ・クリスマス・ソング」はアメリカの有名なクリスマス音楽の題名に由来する。作曲は本人自身が歌手として著名なメル・トーメ。1946年、ナット・キング・コールがレコーディングして大ヒットした。 

 作曲したメル・トーメを含め、エラ・フィッシェラルド、レイ・チャールズ、スティーヴィー・ワンダー、セリーヌ・ディオンらが吹き込んでいる。キング・コールと娘のナタリー・コールとの合成二重唱もあるようだ。

 飯嶋さんはこう書いている。

 子どもの頃、初めて親に買ってもらったLPレコードは、パット・ブーンの『ゴールデン・クリスマス』だった。「DOT」レーベルの、そのアルバムのなかで、最も気に入っていた曲は、B面の確か最後から二曲目に入っていた。

 わざわざレーベル名まで記しているあたり、飯嶋さんはなかなかの音楽通と見た。

 飯嶋さんは次のようにも書いている。

 「ザ・クリスマス・ソング」、様々なミュージシャンにカバーされたこの曲を聴くたびに、子どもの頃過ごした郷里の冬を思い出す。山形市内は今より雪が多く、家々も道路も樹木も、すべて雪に覆われた。家々は木造で、電柱にも丸太が使われ、灯された電球の明かりが、ほの温かく雪に反射していた。

 音楽には人々の記憶を呼び覚ます力がある。飯嶋さんは、「ザ・クリスマス・ソング」の歌声によって初めて親に買ってもらったLPや懐かしい故郷の光景を思い浮べたのだろう。

 それにしても、なぜパット・ブーンの『ザ・クリスマス・ソング』なのか?多分、1952年生まれの飯嶋さんの幼年時代とパット・ブーンがもてはやされた時期とが重なり合うからか。

 今では彼の大ヒット曲「砂に書いたラブレター」「四月の恋」を知る人たちもほとんどいないかもしれない。

 やや人畜無害のところもあったが、あの甘く人懐っこい彼の歌声は、私にはえらく懐かしい。

 ところで私のCDコレクションのなかにはパット・ブーンの歌う「ザ・クリスマス・ソング」は見当たらなかった。この曲が入っているのはメル・トーメ、ナット・キング・コール、ヘレン・メリル、ボブ・ディランらのアルバムだった。

 この4人で聴きくらべてみたが、ナット・キング・コールの温もりある歌声がとくに心に染みた。

 ちょっと調べたところ飯嶋さんの誕生日は12月20日らしい。親に買ってもらったパット・ブーンのLPは、誕生祝いとクリスマス・プレゼントを兼ねたものだったのかもしれない。



左上より時計回りで、メル・トーメ、ナット・キング・コール、
ヘレン・メリル、ボブ・ディランの各アルバムです。
安倍寧オフィシャルブログ「好奇心をポケットに入れて」Powered by Ameba


若き日のパット・ブーン。
安倍寧オフィシャルブログ「好奇心をポケットに入れて」Powered by Ameba