日本が対米戦争の火ぶたを切ったのは1941年(昭和16年)12月8日である。あれからまる70年目のきのう、映画『聯合艦隊司令長官山本五十六-太平洋戦争70年目の真実-』の完成披露試写会がおこなわれた。於丸の内TOEI。

 話題作だが完成度も高い。

 海軍大将山本五十六は、開戦時の日本海軍の総司令官であった。日独伊三国同盟と対アメリカ戦争にからだを張って反対したが、その意に反し、真珠湾攻撃の作戦とその遂行の責務を負わなければならなくなる。

 しかし、苛烈な戦争の最中にあっても、山本長官の胸を占めていたのは、いつ講和するか、そのタイミングをさぐることであった。

 なによりこの映画は、主役に役所広司を得たことで、大きな成功を収めている。役所が堂々たる風格と豊かな人間味を併せ持ったこの武将に100パーセントなり切っているのだ。

 とりわけクロースアップのときの表情が、五十六の胸のうち、すなわち、その都度々々の決断に至る苦悩をもの語ってあまりある。

 役所以外にも、よくぞここまでと思うほどいい男優陣をそろえている。実在の人物を演じる柄本明(海相米内光政)、阿部寛(第二航空戦隊司令官山口多聞)、坂東三津五郎(海軍中将堀悌吉)など多士済々。

 他に玉木宏、吉田栄作、椎名桔平、香川照之、五十嵐隼士など。世代を超えてこんないい男優が日本にはいたのかと目を見張らされた。

 脚本(長谷川康夫、飯田健三郎)がよく練られている。戦意高揚のお先棒をかつぐ香川の新聞社主幹を登場させたことで、時代描写の幅がぐっと広がった。

 戦闘場面も迫力がある。

 これだけの多彩な男性陣を巧みに動かした成島出監督も見上げた腕前だ。

 昭和の子の私が見ても、街のたたずまい、木造の家の内部などに格別違和感を感じなかった。

 1943年(昭和18年)4月18日、山本司令官は、飛行機で太平南方の前線を視察中、米軍機の攻撃を受け戦死を遂げる。

 米軍に無線を傍受され撃ち堕されたとされる。

 護衛機の増加を拒否したことなどから察して、戦争遂行の責任者としての覚悟の自死?ではなかったか、という見方もある。

 観ながら、どうしても頭をかすめるのは、もし今の日本に山本五十六のような人物がリーダーとしていてくれたなら、という思いである。

 五十六は味方の大敗の報にも動ぜず、その作戦を立てた部下を非難することもなかった。

 主人公の柄の大きさと魅力をそのまま反映したこの映画を、是非とも観てもらいたいのは、国民の大半を占める戦争を知らない人たちである。

 「真珠湾が三重県と勘違いされたり、B29が柔らかい鉛筆に間違われたり」(12月8日付け読売新聞・編集手帳)する平成の今だからこそ、この作品のヒットを願わずにいられない。

原作監修半藤一利。




『聯合艦隊司令長官山本五十六-太平洋戦争70年目の真実-』
12/23(金・祝)全国ロードショー
http://www.isoroku.jp/

役所広司(左)と記者役の玉木宏。
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左より、吉田栄作、役所、椎名桔平。
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