青江三奈(1941~2000)。デビュー曲「恍惚のブルース」(1966)が80万枚売れ、その年の「紅白歌合戦」に出場した。次のシングル「伊勢佐木町ブルース」(68)100万枚。いちばん売れたのは「池袋の夜」(69)で150万枚の記録を残している。

 今、どれだけの人が彼女の名前を知っているかはともかく、歌謡曲歌手としてかなりの足跡を残しているわけだ。そのかたわらジャズのスタンダード・ナンバーばかり集めたアルバムも出している。

 『THE SHADOW OF LOVE』(Distributed by disk union)。もちろん、全曲英語で歌っている。

 1993年、ビクターから出たときは、あまりにも売れなくて間もなく廃盤になったと聞く。当時、私はうっかり見逃していた。2007年、復刻されたのは有難い。

 今、私は、「The Man I Love」「Lover, Come Back to Me」など名曲がずらりと並んだこのアルバムが大変気に入っていて、一日にいちどは聴いている。

 青江のハスキー・ヴォイスがジャズにぴったりの上、ジャズ・スピリットそのものを完全にわがものにしていることが、ひしひしと感じられるからだ。

 リズム感、フレージングすべて、ジャズの本道を行っている。

 サイドメンにもFreddy Cole(vo,p)、Grover Washington Jr.(ss)、Mal Waldron (p)など、本場の結構な顔ぶれをそろえている。

 実は青江は、歌謡曲歌手としてスカウトされる前、ジャズ歌手で、銀座の小さなバーで歌っていた。

 「伊勢佐木町ブルース」を作曲した浜口庫之助さんに彼女の歌っているバーへ連れていかれたことがある。デビュー前後のことだ。

 『THE SHADOW OF LOVE』は、お道楽ではさらさらなく青江のいわば原点回帰の試みだったにちがいない。

 このアルバムが制作されたとき、青江、52歳。その7年後、彼女は59歳で没している。

 今も元気で、時々ライヴハウスなんかでジャズを歌ってくれていたらと思うと無闇に切ない。
                                  (続く)

一聴に値する名盤です。
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