郷愁という一点でアメリカのバンドと日本の歌手が意気投合し、とてもユニークなアルバムが出来上がった。

 『由紀さおり&ピンク・マルティーニ1969』(EMIミュージック・ジャパン)です。

 ピンク・マルティーニはオレゴン州ポートランドを根城とするビッグ・バンドで、40~60年代のヒット曲をレパートリーにしている。

 そのサウンドは洗練された懐古趣味とでもいったらいいだろうか。由紀さおりのいい意味での古風さと妙にマッチしている。

 でありながら、太平洋を超えてのこのコラボは決してカビ臭くない。むしろ新鮮な響きさえ感じさせる。

 アルバム・タイトルの1969は、由紀が「夜明けのスキャット」を引っ下げて鮮かなデビューを飾った年である。

 このアルバムは、69年の日本レコード大賞受賞曲「いいじゃないの幸せならば」初め、「ブルー・ライト・ヨコハマ」「夕月」などそのころのヒット曲がずらりと並んでいる。

 とりわけ「夜明けのスキャット」を歌う由紀の若々しさ、艶やかさは驚くばかりだ。

 その歌声に軽くしなやかにまとわりつく伴奏音のきらきらと美しいこと。光輝くガラスの断片か。それもスワロフスキーを思わせる。

 由紀は、ジャズ歌手ペギー・リーの名唱で知られる「イズ・ザット・オール・ゼア・イズ?」にも挑戦しているが、おとなの女の気だるさが滲み出ていて、思わず唸らされた。

 ペギー・リーがこの曲を録音したのは1969年のこと。どこまでも69年にこだわる遊び心が心憎い。


アルバムジャケットです。
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ライナーノーツより由紀を囲むピンク・マルティーニのメンバーです。
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