丸谷才一先生。当年とって86歳。文壇の最長老、そして大重鎮。その丸谷先生が8年ぶりに長編小説をものされました。

 書き下ろし300枚の『持ち重りする薔薇の花』(新潮10月号)で、近く単行本も出ます。(10月末日、新潮社)

 世界的に活躍する絃楽四重奏団の日本人プレーヤー4人、彼等を蔭で応援してきた大物財界人らが主な登場人物です。

 ストリング・カルテットは、演奏上息きが合えば合うほど、私生活では仲が悪いとよくいわれます。そのあたりの機微が迫真的に語られていて、音楽好きにはこたえられません。

 芸術表現に私生活上の人間関係はどう影響をあたえるのかというのが、ひとつの主題でしょうか。

 物語は、財界大物の回想という枠組みのなかで進行します。したがって、ビジネス社会と音楽界の対比が語られる個所もあります。

 その財界人から話を引き出す役割を果たすのが、一流出版社のもと副社長なんですね。ですから出版界の裏話も出て来ます。

 それから結構際どい艶話にもこと欠きません。

 いかにも丸谷先生らしい多面的な面白さがあるし、いろんな雑学(失礼!)も手に入るし、とても豊かな気分になりました。

 最大の功徳は無闇といろんな四重奏曲が聴きたくなることでしょうか。

(追記)「薔薇」の「薇」の字が、先生の題字では一画少ないようですが、PCでは出ませんでした。



六本木の青山ブックセンターにて。
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