オペラ『カルメン』は、1820年ごろのセヴィリアが舞台で、ヒロインは町のタバコ工場で働くジプシー女である。

 来日中のボローニャ歌劇場の『カルメン』は、その設定をスペインから現代のキューバに置き換えた。自由を求めるカルメンは、社会主義国家からアメリカへの脱出を夢見ている。

 なるほどキューバは葉巻の産地だから、タバコ工場はおかしくない。ただし色男の闘牛士はボクサーに変えてあった。

 カルメン役のニーノ・スルグラーゼは、歌唱、演技、容姿三拍子そろったメゾ・ソプラノで、出会った男を狂わす“運命の女”になり切っていた。

 オペラではしばしば、歌唱力を優先するあまり太っちょのおばさんが絶世の美女役を演じることがありますからね。

 長椅子に腰掛けたカルメンが、両足を伸ばし、すねやふくらはぎに水差しの水をかけるシーンがある。なんと細かいところまで行き届いた演出(アンドレイ・ジャガルス)だろう。

 そういえば評論家の川本三郎さんが大好きでよく使う言葉に「神は細部に宿る」というのがありましたな。

 南国をホーフツさせるカラフルな装置・衣装も目の保養になった。
 (9月13日、東京文化会館。主催フジテレビジョン)


ドン・ホセのマルセロ・アルバレス(左)とカルメンのニーノ・スルグラーゼ
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華やかな酒場の光景
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                                     photo:K. Miura