別名「SUKIYAKI」と呼ばれた日本のはやり唄が、なぜ日本語の歌詞のまま全米ヒットチャート第1位にのし上がることができたのか(1963年6月、3週間連続)。著者は、広範囲にわたる関係者インタビューと徹底的な資料読み込みで、この興味深い謎に注意深くかつ大胆にメスを入れていく。そのプロセスは読み応えのあるミステリー小説に比敵するかも―。
 とくに第13章“邂逅”が読み応えがある。たまたま入手できた作曲者中村八大の自筆原稿とレコードに残された坂本九ちゃんの歌いぶりとの綿密な比較論だが、その両方の隙間あるいは落差に秘密を解く手掛かりが隠されているというのが、著者のおおよその見立てと思われる。
 歌詞には永六輔の安保闘争での挫折感が反映しているという指摘にも、思わず納得させられた。
 歌は歌だけでヒットするわけではない。時代の空気、大衆の好みとも深く関係する。著者が両者の相関関係を深く読み込んでいる点も見逃せない。具体的にはロック音楽の台頭という世界的気運のなかで、この歌がどう位置づけられるのかという考察である。
単なる音楽書を超えた優れたノンフィクションとして十二分に楽しむことができる。岩波書店刊。


              読み応えのあるノンフィクションです
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        7月21日、原宿でおこなわれた出版記念会での佐藤さん
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                 永六輔さん(左)と著者
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