あなたにとって天皇とは何者ですか。天皇制とはどういう意味を持つものですか。私は昭和1桁生まれですから、戦前の現人神としての天皇も戦後の象徴天皇も体験的によく知っています。正直いってその存在を肯定もできないし否定もし得ない。天皇陛下万歳と叫んで死んでいった数多くの兵士たちを思うと複雑な気持ちになります。
 新国立劇場小劇場で上演中の『おどくみ』(青木豪作、宮田慶子演出)は、横須賀で仕出し屋を営む一家の物語ですが、なぜか昭和天皇や現皇太子が隠し味のように会話の端々に登場します。その家の息子(浅利陽介)が学習院に通っていたり、パートの女性(根岸季衣)が皇室ミーハーだったりするからです。
芝居を通して語られる一家の皇室観は、あこがれの対象といったところで辛口ではありません。
 お芝居の展開としては、ある日突然この仕出し屋に葉山のご用邸からの注文が舞い込んだところから俄然面白くなります。一家のぐうたら親父を小野武彦、働き者の妻を高橋恵子が演じ、ともに自然体でいい味を出していました。
 仕出し屋一家と天皇、この意外な取り合わせのせいか、さざ波のような笑い声が客席に絶えず巻き起こっていました。


『おどくみ』の舞台より
            夫婦を演じる小野武彦(左)と高橋恵子
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           左より高橋、根岸季衣(酒田京子役)、小野      
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撮影:谷古宇正彦
財団法人 新国立劇場運営財団