全6話の3つ目です
主演はもちろん中川大志くん
武士の鏡とは なんぞや?
気になる方は
ぜひ1話からお読みいただければ
幸いです
第三話 ユズは一躍人気者
友里奈と翔平 互いの家の中間地点に
待ち合わせのオープンカフェはあった
友里奈は翔平の座っている席に近づく
「急に連絡したのにありがとう」
文庫本を手に読書中の横顔に声をかける
「早かったね 忙しいんだろ?」
閉じた本を 翔平はそのままバッグにしまった
「うん 何から話せばいいかな……あ…レモネードを……」そばにきたウェイトレスに秒でオーダー
「相変わらずの柑橘系か……」
「コーヒーも飲むわよ あ…ランチはどうする?
食べちゃう?」
ユズの食べる昼食は用意してきた
大きめのオムライス
レンジの使い方も お湯の沸かし方も全部教えて
スープは インスタントのものをカップにいれ
「お湯が沸いたらここに注いでね」
教えればちゃんとできると確信している ひとり残してくるのもそんなに心配ではなかった
「武士の鏡をね……試したのよ」
昨夜……いや今日になりたてのできごとを
友里奈は翔平に全て伝えた
「ユズはね…帰国子女かとも思ったけど いずれにしても記憶喪失だと思う 試してみようと思ったのよ
ところで あの鏡は……どんなしくみなの?」
鏡を見て記憶が戻るなんて思えない ホントなら凄い発明よ……と友里奈は話すのを止めなかった
昨日のこと 自分の学校につれていき
シンバルに興味を示していたユズが武士の鏡によって 自分が叩いたことのある楽器を思い出したのだ
笛の音や太鼓の音も聴こえていたらしい
「でも……その楽器って何なのかしら 海外の民族楽器なのかな……」
その一部始終を翔平に話して友里奈はやっとレモネードに口をつけた
「しくみか……その作り方については説明が長くなる
簡単に言えば視覚から脳に刺激を与えているといえばいいかな それにしても驚きだ……」
「ねぇ…何か他にないの?彼の……ユズの記憶が戻るきっかけになるもの……」
「うーん 探してみるけど あまり期待しないでくれ
それより 大丈夫なのか?警察に届けなくて……行方不明なら届けとか出てるんじゃないのか?」
「そうね…でも せっかく記憶を取り戻せるかもしれないのに 試したいじゃない?それにね ユズはすごいのよ きっと頭もいいんだわ 忘れてるから今はその力を発揮できないだろうけど オールマイティで……ハイスペックの持ち主よ」
「随分入れ込んでるな…さてはいい男なんだろ 年の差忘れて……?」
「しっ失礼な……あなたじゃないわよ そうだ 精神科医なんだから一度会ってみてよ でも少し…」
ユズが……もう少し慣れてからと友里奈は言う
「その間に全部思い出したら?」
「それはそれでいいわ 嬉しいことよ」
それは本心だった 明日にでも記憶が戻ったらそれはそれでいい
「……それでね ユズは鎧をつけてたのよ あと刀…エキストラ用だろうけど 立派なものよねぇ…」
「へえ…見てみたいし ユズくんにも会ってみたいけど 今週は忙しくて」
「そうね……次の休みがいいかしらね」
慌てなくてもユズの身元がそんなに早くわかるとは思えない友里奈だった
別れた夫とはいえ 周囲の人間で一番信用しているのは翔平だ
ユズのことで何か相談事ができたら きっと翔平に連絡するのだろう
友里奈は自分でもよくわかっていた
部屋に戻ると ユズはソファに座りTVをみていた
鉄棒をする人物が画面に映っている
キッチンに行くと
食器は洗って水切りカゴに立てかけてあった
(私の洗い物の様子を見て同じようにしたのね)
何だか 愛おしい気持ちになった
そのユズは ずいぶん熱心に画面を見ている
「それ わかる? グランドにあったでしょ?鉄棒」
「はい あれは何なのかと思いましたが こんなふうに使うんですね」
「それ……できそう?」
画面では 逆上がりや足掛け上がり 前回りなど
お手本のような演技が映っていた
「たぶん……」
友里奈は心の中でガッツポーズをした
今 学園の小学校では体育を教えるのが苦手な教師がいる 口では説明して授業は進められるけど
お手本やアドバイスがうまくできないというのだ
ユズにはそのサポートをしてもらえたらいい
自分の考えをユズに話すと
「承知しました 私でお役にたてれば」
「うん……あとユズ 自分のことを私でもいいんだけど…むしろ丁寧でいいんだけどね…… 自分のことは僕でいいわよ」
「ぼく……僕ですね かしこまりました」
(何だろ この言葉遣い この口調は
どこから来たの?と思ったけど まるでいつの時代から来たの?と思わせるような)
鉄棒の真似をしながら両手を順手にしたり逆手にしたりしているユズの横顔は真剣そのものだった
そして 0時になった
一分がたち ユズはリビングにやってきた
「どうした?」
「わた…僕は川にいて 棒を持って糸を垂らしていました ぐいっぐいっと動いて引っ張り上げると魚が飛び上がるように空の方にはねて……思わずひっくり返って
寝転んだ上に空が青く広がって……そこまでです」
「釣りね!魚釣りをしていたのね」
友里奈はノートに記しながら光景を思いうかべる
(ひっくり返ったのならおそらく…小さい子どもの頃のことだろうな…)
ユズに確かめはしなかったが カッコ()をつけて書き加えた
「釣り とても楽しかった……です」
幻なのか……と思っているのか 残念そうなユズ
教材DVDを見ながら鉄棒の真似をして手を握ったりひっくり返したりしていたことが釣竿を操ることを思い出させたのか
(ちょっとこじつけかな)
友里奈はペロッと舌を出すとユズが ん?と不思議そうに見たので 恥ずかしくなった
「2日連続で成功ね」
友里奈はそう言いながらも 肝心なことに到達するにはまだまだかかるのかなとも思う
朝になり
友里奈の運転する車の助手席にはユズがいた
友里奈はハンドルを操作しながら自分でも確認するように話す

「今日は 主に学園内を案内するわ
でも 1つだけ 体育の授業に出てもらいたいので
心の準備だけはしておいてね
あ そうそう 月曜朝の全校集会があるから
ユズのことを紹介するわね
名前を言ってよろしくお願いしますだけでいいわ」
10分もすると学園に着いた
校門を過ぎる頃から スピードを緩めた車の助手席を見て 興味深そうな顔 顔 顔
ユズは自分が見られているとは思わなかった
朝の職員打ち合わせ そして全校集会
車の中で練習した通り
「東堂柚流(とうどうゆずる)です よろしくお願いします」とだけ挨拶するユズだった
友里奈が続ける
「海外での暮らしが長かったので 言葉を始めわからないことが多いのです 東堂先生が困っていたら皆さん助けてあげてくださいね」
はーいという声があちこちから聞こえ
頷く子どもたちは嬉しそうだった
高学年の女子の間では『理事長の車の助手席に座っていたイケメン』として 既に広まっていたのだ
集会が終わり それぞれの教室で1時間目の授業が始まると 「じゃあ東堂先生 行きましょうか」
友里奈は少しかしこまった顔で職員室のユズに声をかけた さっそく校内をまわる
廊下を通れば気づいた児童が手を振っている
どうしていいかわからずユズは頭だけ下げた
体育館 図工室 音楽室
「図書室はね……中学部との境にあって
小学部の児童も 中学部の生徒も 両方が使えるようになっているのよ
図書室のたくさんの本には目を見張るユズ
「気になるものある?手にとって見てもいいのよ」
絵本や写真集もある
「また来るわ ゆっくり見ていていいわよ」
ユズは「はい」と答え 友里奈は一旦図書室を出ていった
本と本の間を歩くユズ
ふと立ち止まったそこには 「え?」
「源頼朝」の文字があった
(なんか……この文字 初めて見る気がしない)
ユズルは手に取り 開いて驚いた
それは歴史漫画 絵に惹かれたのだ
(何だ これは……覚えがある
烏帽子をつけた男たち ページをめくると鎧を身に着けていたり
女達の髪は背中よりも長く 今ここで目にしている風景とはまるで違う
(なぜだ……この方が自分はなじむ気がする)
そこで 鐘のようなメロディーが流れる
チャイムだった
「ごめんねユズ……あ 東堂先生 休み時間だから子どもたちが来るかも」
それは差し支えないのだが ユズはきっと戸惑うと思い急いで戻ってきたのだった
「あの……」「ん?どした?」
尋常ではなさそうなユズの手には歴史モノの漫画
「これ……読みたいのです」
ユズはさらに2冊選び 計3冊となった
友里奈は司書に渡すメモを書きながら思う
(そうか……絵のほうがいいのね なるほど……)
紫式部はその下に源氏物語……と書いてあり
つまり 源氏の文字が気になったのだ
そこに……中学部の女子生徒が入ってきた
彼女たちは驚いた顔をしながらも 理事長である友里奈と横にいるユズに向かって
「こんにちは」と頭を下げた
「こんにちは 次はここで授業?」
生徒たちは友里奈に固くなる様子はない
慕われている理事長なのだった
「はい 次は国語なのですが 読書の時間なんです」
「そうなのね いい本に会えますように」
友里奈は生徒たちに微笑んで そしてユズを促して図書室を出た
「見た?すごくカッコいい」
「先生かな 助手かな」
「でも……漫画持ってたよね」
「歴史っぽい本だけど 漫画だったね」
「なんか……可愛い」
この噂は一日で中学部に広まった
午後は5年生の体育の授業に出たユズ
昨日見ておいた鉄棒の💿が役に立った
児童たちは喜び ユズは一躍人気者となった
一日の授業も終わり 退勤の5時になると 理事長室から友里奈が出てきた
「東堂先生 初日だからもうここまでにしましょう 送っていくわ」
「はい お先に失礼します」
ユズが職員室を出ようとすると
5年2組の担任が出口まで駆け寄ってきた
「今日は本当にありがとうございました 次からもよろしくお願いします」
その後も職員室はその話題でもちきりだった
「だってねぇ……東堂先生にお手本見せてもらえます?と言ったんですよ…理事長からはどのくらいできるかわからないけどと言われていたけどね
でも やってみます……と言って」
「できちゃったの?」
「そうなのよ まあね 逆上がりで驚くことはないかもしれないけどね」
話す本人も嬉しそうだった
「一人の子が 他に何かできますか?と言うから
みんな「みたい」「みたい」って……
ひと通り技を披露して 地獄周りまで見せたから拍手喝采ですよ そのあと…バク転までやって」
「それはすごいですね」
「そればかりではなくて 子どもたちが練習するときのアドバイスもうまいのよ」
「何者なんだろ……
教員免許は持っていないから サポートとして採用したらしいけど
海外で何をしていたんだろ」
「でも 若いよねぇ 大学生くらい?」
職員室がそんな噂で持ちきりとはつゆ知らず
2人の乗った車は夕焼けを浴びながら走る
「疲れた?」
「いえ…そんなことありません」
「明日も行けそう?」
「はい」
「楽しくは……なかった?先生ってどうかな」
「楽しかったです 明日も行きます」
友里奈はユズをマンションの前で降ろした
「はい これ鍵ね…開け方わかるよね?
私はもう一度仕事に戻るから」
「はい」
「0時には起きていてほしいから 仮眠をとってもいいのよ」
「はい」
楽しかったのは本当なのだろう ユズはこれまでで一番の笑顔を見せた
燃えるような夕焼けに向かうように走る車
日付が変わる0時が
待ち遠しい友里奈だった
つづく
長いなぁ……読んでくださる方に
感謝でございます🙇♀


