2020/4月に書いたものです

 
菅田将暉さん&小松菜々さんの映画も延期になっておりますが 気になる映画です 噂の2人だしおねがい
ただ 観に行けそうにないので
いずれレンタル・・・ですね

理人とやえこドキドキではなく 幸恵さんたちの方をイメージしました

6/16のブログ
バイオリン三銃士は永久に不滅です
の続きからという設定にしたいと思います


また6/14のブログ北河弘章氏の弁明をお読みいただいた方が 話の中身もわかりやすいかと思います


                         音譜   音譜   音譜   音譜   音譜

「弘章さん 今日はありがとう」
幸恵は ドリップしたブルーマウンテンを 弘章の前に置いて
自分もソファーに座った
理人と也映子が訪ねてきてくれて
理人の作ったうどんを食べ
由実子とタミから エプロンのプレゼント
弘章からは 指輪をプレゼントしてもらった
片付けも弘章とタミが済ませてくれて
幸恵は 幸せな誕生日となったのだった

22:00 この時刻のコーヒーにちょっとためらったが
弘章も香りに癒されたようだった
タミは自分の部屋に行き 由実子は眠りについていた

幸恵は指輪を外し ケースにしまった
弘章が誕生日のプレゼントにと買ってくれた物だ


幸恵の「ありがとう」の言葉に 
弘章はコーヒーを一口すすって頷いた

「何か 疑ったのか?俺のこと」
弘章は カッブの中の揺れる琥珀の液体を見ている

「あ ごめんなさい 他の人には言ってないし
誰にも言うつもりはなかったのよ ほら 也映子ちゃんってたまにカンが鋭いことがあって・・つい」
幸恵は 指輪をしまった小箱を両手で撫でている
それは無意識のことだった

「それ 会社の後輩に一緒に選んでもらったんだよ
ネックレスの修理にきていて 店内でバッタリ会って」

バッタリ会ったというのも嘘をついている様子はない
「店員さんにきいて選ぼうと店に入ったけどね でも 知り合いの方が気楽じゃん」
「そうか ふふっ」
「俺だって 反省してるんだよ バカな真似はしないよ」

幸恵は小箱をちょっとあけ 中の指輪を見た
「その娘には 何をプレゼントしたのかな」
あの一件 幸恵は謝る弘章を見て
バイオリンを習うことの承諾を得て
余計なことは 何もきいていなかった
ただ あの夜浮気を疑い 突きつけた明細にあった店名は
この小箱に書かれているものと同じだった

いつもは 話が長くなるのを面倒くさがる弘章が
珍しく穏やかに口を開き始めた

「キーチェーンだよ」
「キーチェーン?アクセサリーの店で?」

弘章はその娘のことを話した

二股をかけられ振られた
相手の娘は妊娠していて LINEで別れを告げられた
愕然として倒れそうな姿をみて話をきいて
慰めのつもりで何度か会って
別れる前に一泊で出かけたと

幸恵は 事が発覚した時に 何があったのかと想像し これ以上深い所はないだろうという『どん底』まで落ちていたので
今 目の前で話す弘章のことを 思ったよりも冷静に見ていられた
「その娘が 引越すと言ったんだ  今までのことを全部忘れたいと」
「二股かけられて 相手の娘が妊娠って そんな彼の思い出の部屋は 住みたくないよね」 
二股・・妊娠?婚約破棄?どこかで聞いたよな・・?
いやいや 今は目の前の夫と自分のことだ
こんな風に話したことって いつ以来?
初めてかもしれないな 
「店のショーケースに 可愛いキーチェーンがあって 次の部屋の鍵をこれにつけようって その娘が言うから
じゃあ 俺がプレゼントするよって その時に支払ったんだよ」
幸恵は 先ほどから速くなっている鼓動の胸元を両手で押さえた

もう 十分だと思った話は 弘章も終わりにしようと思っていたらしく 沈黙が流れた

「あなたはねぇ 優しいのよ」
幸恵は弘章をじっと見た
「でも 普段はそれを見せないの 憎まれ口をきいたり
強がったり」
普段は見せない優しさを 自分ももらった
初めて出会ったときに ぶっきらぼうな振るまいにも
優しさを感じて 惹かれてついていこうと思った

なぜ 今胸が苦しいかというと 
その優しさを その娘にもあげたこと

「あなたが スケベ親父ならよかったのよ」
「え?」
女と見れば 隙あらば!というような男だったら・・
誘惑に負けて つい魔がさしたとかだったら・・・
その方が楽だった
弘章は この行為は魔がさしたかもしれないが
でも その娘のことは遊びではなかったのが
幸恵にはわかった

「あなたの優しさを 見抜いたのが私だけじゃなくて
悔しいのよ」

我慢できずに 両の目から涙が溢れて流れて
テーブルに落ちた

「幸恵・・・」
弘章は 手を伸ばして棚からティッシュを取り
幸恵の前に置いた

プチ家出の日から 良き妻だった幸恵の起こしたことに
胸のうちを理解しようと弘章なりに努めてきた

あの夜の幸恵よりも 
もっと小さく見える目の前の幸恵

「俺さぁ 一回だけしてしまう過ちがあるとしたら
もう これからはないからさ」

完璧をめざして 良き妻 良き嫁 良き母をこなしてきた幸恵が ただの女として 肩を震わせている

弘章はソファーに座る幸恵の肩を 後ろから抱き締めた
「ごめん 幸恵 もう一度だけ謝らせてくれ
忘れてくれっていうのは なんだけど もうこれからは先だけを見て 一緒に歩いてくれよ」
「一度だけ 許されるなら 私も一度だけ いい?」
幸恵の声は笑っていた
「おいおい 勘弁してよ」
弘章が肩を抱く手に力をこめた

翌朝 目覚めると 横にいる弘章が笑っていた
「何?寝顔見ないでよ」
幸恵が照れて肘でつついた
「だって幸恵 今 バイオリン弾いてたぞ」
「え 何?こうやってた?」
幸恵はバイオリンを弾く仕草をして
その手を天井の方に向けた 
「ねぇ 弘章さん 一本の糸と もう一本の糸が・・」
右手と左手が近くになる
「こうやって出会って 紡ぎあって 一枚の布になって」
「あれ?それ どこかで聴いたような歌だな」
「中島みゆきの 糸 っていう歌よ」

そうかっと弘章は思い出していた
「でもさぁ 私たちは そう スラブヤーンって知ってる?
太さが均一じゃなくて そんな糸で編まれたものは
表面もボコボコで そんな布になると思わない?
シルクの滑らかさとは ほど遠いような・・・」
「それも いいんじゃないの?味があって」
弘章の言葉に幸恵も答えた
「そうね!」
そろそろ みんな起きる時刻だ
今日も 1日が始まる

                       晴れお   わ   り晴れ