「パスタ美味しかった もちもち・・」
また 行きたいね・・・と也映子は上機嫌だった

ふと 昔を思い出した理人
「あ!俺 うどんなら粉から作れるよ 高校の時 うどん屋でバイトやってたんだ」 
高校のすぐ近くのうどん屋では 店主がイチから教えてくれて いつの間にか 1人でも作れるようになっていた

「足踏みが楽しかったなぁ」
「へぇ すごい」
「今度 作ってあげるよ あ 小暮家で作ろうか?」
「いいね!お母さん うどん大好きなんだわ」
「じゃあ そうしよ 」
あっという間に 次の約束が成立した

也映子のバイオリン教室のある月曜日には その後はカラオケルームで一緒に過ごすのが お決まりになっていた バイオリンの練習もするが  おしゃべりで終わってしまうこともしばしば

理人は 待ち合わせのカラオケルームに早めに行った
30分ほど練習していると 也映子が慌ただしくやって来た
「どうしたの 何 急いでんの」

理人は ビール2つと唐揚げをオーダーして 也映子の側に腰を下ろした

「今日ね 昼休みに幸恵さんにラインしたのね」

「あ 入ってたね 也映子さん グループにライン入れたでしょ」
「うん そしたらね 即レスだったから だったら電話しちゃおうって・・ 」
「電話できたんだ」
「うん・・よければ次の日曜にいらっしゃいよって言ってくれたんだけど  
でも 何か幸恵さん元気がなくて」
「何だろ タミちゃんのことかな」
「ううん 買い物でラザウォークに行ったらね 弘章さんが 女の人と歩いていたんだって」
                                       👫
「え!?でも ショッピングモールなんて やましいこともないんじゃないの?」
地元の駅近くなど 知人に会う可能性大であろう
「私もね そう言ったんだけど 2人が買い物したみたいで 同じショッパー持っていて 小さめなんだけど同じものってわかる あれ 何なんだろって 」
「うーん よく わかんねぇな 聞いてみれぱいいのに」


「幸恵さんさぁ いざとなると恐いんじゃないかな 
あの日 好きな人とは緩いだけの関係に留まっているもんじゃなくて・・これからだって 何があるか・・とか 口では言えても 実際 目の前にくると どうしていいか」
「それ いつのことなの?」
「金曜日だから3日前か 何でもないなら いいけどな」
「何でもないことを祈るけど でも一度やっちゃってるからな・・疑う訳じゃないけど」

2人は少々気掛かりなまま 日曜日がやってきた
理人は若干荷物が多かった
バイオリンを背中にしょって 手には小麦粉を始めうどんを作るための道具の入った袋を持っていた 
『理人 初のうどん振舞い』は 北河家となった

幸恵が天ぷらを揚げるから夕食を食べていきなさいよということになったのである

理人と也映子は 駅で待ち合わせ 昼食を一緒にとり 2時過ぎに北河宅に向かうバスに乗った
すると 幸恵からラインが入った
「ごめんなさい!実は 義母が朝から歯が痛いって お昼過ぎに もう我慢できないって
日曜日にやっている歯医者が見つかったので出かけてきます  弘章さんがいるし タミも部活から帰ってくると思うから 家で待っていてくれる? 本当にごめんね💦💦」とのことだった

「バスに乗る前なら 時間つぶせたけどなぁ しょうがないな」
「ううん いいの 逆にチャンス!私 弘章さんと話する 理人くんは うどん作っててよ」
「え?ええ?まぁ いいけど」
というわけで 北河宅に着いた2人は 遠慮なく家にあがり 理人はうどんの準備を始めた 
弘章の父親が 生前使っていたというそば打ちの道具が用意されてあった
「うわぁ これは使いやすそうだなぁ」 
理人は早速うどん作りにとりかかった
一方 也映子は 別室で弘章と話をしていた 幸恵が落ち込んでいるのを知り 黙ってはいられなかった
理人が 粉に水を回しいれ 生地こね・・

それを足で踏み・・生地を寝かし始めると 也映子と弘章もリビングに戻ってきた
「あと 1時間・・2時間寝かせられたらいいかな」
理人はそう言いながらも 也映子と弘章の話が気になったが その時
「ただいまー!」
玄関からタミの声がした

「タミちゃん お帰り」
「こんにちは!理人くん うどん作ってくれるんだよね 楽しみ!」タミは 着替えのため部屋に向かった
うどんの生地を寝かせている間 しばしの休憩だ

弘章がアイスコーヒーをグラスに注いでテーブルに並べた
                                           🥤🥤🥤
「あ いただきます」
ソファーに 座った也映子は スマホを開いた
「あ! 幸恵さんからラインだ」
そう言いながら 何か打ち込んでいる 幸恵に返信しているのだろう 

「理人くんにも入ってるでしょ?」
何か言いたげな也映子の顔に 理人も画面を見た
也映子からのラインが入っていた
「とりあえず 大丈夫 タミちゃんいるから 話には触れないでね」
なるほど 弘章との話は 無事終わったということだけはわかった
「幸恵さん あと30分後くらいで戻るそうです」
弘章は 頷いて そうだ!という顔で理人の方を向いた
「理人くん 俺も今度 そば打ちしようかと思って」

「そうなんですね!そばもいいですよね・・」
「せっかく道具も揃ってるし・・よかったよ 
しまってある道具を出して また使ってあげられるって
 道具も喜んでるかなと思ってさ」
理人は そうですねと 心から同意した 

せっかくの物を活かしてあげられないのは もったいない もちろん 物ばかりではない 人も・・
弘章さんは 幸恵さんの良さをわかっているのだろうか 
少なくても自分は幸恵さんにも助けられた
そんな事を思うのも 也映子がしたことも
ちょっとお節介に近いものもなきにしもあらずだが

「理人くん 也映子ちゃん ごめんねーー待たせちゃったよね」
「幸恵さーん お邪魔してます お久しぶり」
「お邪魔してます 今 生地を寝かせてます」
口々に挨拶した理人と也映子は 幸恵の笑顔を見てホッとして 目を合わせた
「じゃあ 私も急いで天ぷらの用意するね」
座る間もなく エプロンをつけようとする幸恵に弘章がソファーを掌で軽く叩いた
「座って ひといきついたら?」
「そうよ 幸恵さん ありがと 痛みも治まったわ おかげで・・」義母の由実子も座るよう促した


「でも 天ぷら作らないと・・」
「いいよ 天ぷら なくてもうどんだけでいいよ」
「でも・・」
「そういうとこ!」タミも父親に賛成のようである
「あのぅ 僕が言うのも何なんですが うどんを味わってみるのも いいかなぁなんて・・」
理人も 忙しそうな幸恵を思って口を挟んだ
「そう?じゃあ お言葉にあまえて ちょっと休んじゃおうか」
幸恵はソファーに腰かけた

理人がうどん作りを進め 弘章も手伝って 順調にできあがっていった
「昔 お父さんがお蕎麦を打つ横で 弘章見ていたもんね
僕!お手伝いする!って 可愛かったわぁ あの頃は」
由実子が懐かしそうに目を細めた

うどんが出来上がり 夕食には少し早めだが 食卓を囲み
みんなで 打ち立ての味を楽しんだ

「美味しかったわぁ」
「私も始めて食べたけど 理人くんすごい!お店の味だ」也映子が驚く横で タミも頷いた
「理人くん また也映子ちゃんと来てね そして また作って!」

理人の手打ちうどんは すっかり人気だ 
「こんなのでよければ いつでも・・」理人も予想以上の評判に気分よかった
「片付けは 大丈夫 2人は座っていて」

幸恵がテーブルの上の食器を片付け始めると 弘章が食器を受け取りながら
「いいよ 幸恵は座ってて 今日くらい・・タミも手伝うよな それより幸恵  あれ・・言ったのか?」

「あ そうそう 2人とも 時間もう少し大丈夫?この後 急いで帰らなきゃいけない?」
時計は6時40分を指していた 
理人と也映子は顔を見合わせて 特に用事はないことを伝えた それを聞いて
「今日 幸恵の誕生日なんですよ ケーキを一緒に食べていってくれませんか?」
少し改まった様子で弘章が言った

「幸恵さん そうか 今日!おめでとう‼️」
「おめでとうございます 一緒に頂いていいんですか?」
理人の言葉に 幸恵も首をコクンとさせた


「もちろん!それに 今日 バイオリン弾いてないよねぇ
何かおしゃべり 止まらなかったね」
そう言えば 久しぶりにバイオリンを弾こうという本来の目的は どこかにいっていた
     ケーキを頂いて バイオリンを小一時間弾いても そんなに遅くはならないだろうと 理人も也映子も思いは一致したようだった
                             🎻
「幸恵さん 何も用意してなくてごめんなさい 今度!今度来るときに プレゼント持ってきます」
也映子が手を合わせると 幸恵は手を振った

「いいのよ也映子ちゃん それにおうどん 美味しかった すっかり作ってもらって 理人くん ありがとね」
「いえ こちらこそ ケーキ 美味しかったです」
すると タミがプレゼントの包みを出した
「お母さん これ おばあちゃんと選んだの」

「うわぁ お義母さん タミちゃん ありがとう 何かな?」
嬉しそうに包みをあけると エプロンが入っていた
「うわぁ 素敵ね」

「でも それをつけて 家事をガンガンやって!ということじゃないからね 無理しないで!」
タミが言う横で 由実子も「そうよ」と笑っている

也映子はちらっと弘章を見た
「幸恵 これ・・」
弘章は照れながら 幸恵に小さな包みを渡した
幸恵は 驚いた その包みが入っていたショッパーに見覚えがあったのだ 

10日ほど前のラザウォーク
あの見かけた時に 弘章が手に持っていたショッパーだった
包みを開けると 指輪がキラッと輝いていた
「綺麗!」「お母さん よかったね」「つけてみて」
皆が口々に言う中 幸恵は指に通したが その指は少し震えていた
「弘章さん ありがとう」

幸恵は涙声で 今にも泣いてしまいそうだった
「ほら バイオリン弾くときにも映えるかなって思ってさ」
「弘章 やる時にはやるわね」
由実子は次は私にもねという言葉は飲み込んで 息子を見て笑った

3人は 観客3名を前に 久しぶりに一緒のバイオリンを披露した
幸恵はエプロンをつけたままで 指輪をつけたままで
笑顔は更に輝いていた


「バイオリン三銃士は 永久に不滅です!」
由実子が キリッとそう言うと 弘章が苦笑い
「それーー長島さんが 巨人軍引退するとき言ったヤツ
古いよ」
「ううん お義母さんの言う通り ずっと続くよね」
幸恵の嬉しそうな顔に見送られ 理人と也映子は北河宅を後にした
                                            🚌
「じゃあ ラザウォークで見かけたのって あの指輪を買っていた時だったのか」
「そうなんだって 職場で ネックレスの修理を頼んでいた同僚の女性とたまたま店で会ったから 選ぶのを手伝ってもらってんだって」
「なんだよー そんなことだろうと思ったよ まぁよかったけど」
「ホテルだのレストランだの 不明の買い物の明細から
浮気バレてるからね 悪い方に考えちゃったんだよ」
他に乗客バスのいないバスの中で 後部座席
運転手にも聞こえないだろうと 弘章との話を也映子は理人に伝えた
バスはゆらゆらと 揺れながら走る
バイオリン三銃士は永久に不滅・・か
「也映子さんと俺も 永久に不滅だね・・」
理人が窓の外の夜空の星を見て呟くと
理人の肩に頭を乗せて 也映子は眠りについていた

也映子の也映子らしさは 永久に不滅のようだ

                                    ❇️おわり❇️