男は発声器官が未熟かと思えるような声でしゃっくりあげながら答えた。

「見てわはるヒック!らろう。俺はまは愚者。ヒック!ほんなひいさいヒック!事もヒック!わはらないなんて、お前さんヒック!もひょっとひて愚者かい?」


呂律が回っていないが自分は愚者である事と、少年も愚者か、ということを訊いてきたというのは間違いなかった。


なんだか目眩がするような気がした。

しかしそれよりも少年は怒った。

が、こんな【本物】の愚者に怒り散らしても、無意味な事だと漸く気付き、自己嫌悪に浸った。


そうしているうちにキュールもどきは言った。


「こんな使い魔。只の小手調べさ。私はこんなものにあんたがやられるとは思ってないんだけど。」


嘲笑うように言うその言葉は、皮肉っぽく、最高の屈辱だった。


少年の目の前にいる愚者は、誰でも感じられる膨大な量の妖力をだらだらと放出させていた。
少年は顔をしかめて男を見やった。


キュールもどきはにたにたと笑いながら目の前に広がる光景を楽しんでいる。


少年は警戒しながら、周りを観察した。


キュールもどきは相変わらずにたにたと閉まらない口を閉めようともしない。

何か企んでいるのかも知れない。


飲んだくれ男の方は酔ってふらふらしながらも目だけは少年を見据えて、冷静さは保っているようだ。

しかし、それ以上の事はわからない。


少年は根本的な疑問をぶつけてみることにした。


「お前は何者だ?」
「…愚者。」


キュールもどきは突如、つぶやいた。

少年は最初自分に向けられた言葉かと思った。


しかし、それではおかしいと言えよう。

キュールもどきの発した言葉は、唇から、空気を振動させ、大きな声ではないのに、森全体を震わせたのだ。


そして、少年に向けられた言葉でない事を裏付けるように、キュールもどきの後ろの茂みから、飲んだくれの男が出て来た。

見格好は、お世話にも良いとは言えない。


そして、飲んだくれが呼吸をするたびに、数メートルも離れている少年に酒臭い息が伝わってくる。