冗句202
◆風呂と電話
「あなた、電話よ……いまお風呂だわ。会社からなら、出てあげたほうがいいか。もしもし、岸田ですが……」
「ウッ」
「どうなさいました?」
「いいえ、岸田部長に急ぎの案件ができまして……」
「いま、主人は入浴しておりますが、呼んできます。あなたァー! そうだわ。掛けてきたのは、だれだっけ。失礼ですが、お名前は?」
「同じ課の泉です」
「あなた、泉さん。急ぎだって! 女性の方よ」
「泉だったら、いいンだ。あとで掛けなおすと言ってくれ」
「夫があとで掛けなおしますと申しておりますが」
「奥さんですか。奥さんなら部長に言っておいて。ひとのカード使うなら使ったと言えって。ひとの体だけじ足りなくて、お金まで奪うって、どういう料簡よ、って」
「あなた、泉さんが、あなたに体とお金を奪われたって、ご立腹よ」
「そんなことはしていない。体は傷つけていないし、金は……おまえが立て替えてくれ」
「わたしが立て替える!?」
「来月には慰藉料が入るだろッ。財産分割で、実入りは多いはずだ」
「泉さん、いまの夫の話、聞こえましたでしょう」
「奥さん、そんな男をわたしに押し付けるつもり。これでもずいぶん我慢してきたの。お金はどちらから払ってもらってもいいけど、わたしの体を傷つけていないって、言ったわよね」
「おれだ。電話を代わった。なにゴチャゴチャ言ってるンだ。話は昨夜、全部ケリをつけただろッ」
「いいえ。お金はケリがついたけれど、わたしの体はどうするつもり! 使って、そのまま捨てるつもり」
「そのままって。おまえの体には、未練はあるが、我慢する」
「我慢する、って?。体のなかよ。こどもも返せばいいのね!」
2024.6.29.