起立性調節障害では、脳の自律神経中枢(大脳辺縁系、視床下部など)の機能が悪くなり、その結果、交感神経と副交感神経の働きが強すぎたり弱すぎたりして、両方のバランスが崩れてさまざまな症状が出現します。遺伝的体質や精神的ストレスに大きく影響を受けます。
起立性調節障害では、自律神経機能障害が午前中に著しいため、登校しぶりや「怠け」のように見えますが、そのような見方は正しくありません。
これらの原因ははっきりしていませんが、現代の夜型社会や、複雑化した心理社会的ストレスが背景にあるといわれています。
起立性調節障害の治療には、薬を使わない非薬物療法と、薬を使う薬物療法がありますが、非薬物療法が基本です。
非薬物療法としては、
1.水分を食事の他に多くとる(1日に1.5リットルから2リットル)。
2.塩分を多くとる。いつもの食事に3gほど、余分にとるだけでも効果が出ます。
3.寝た状態や座った位置から、急に立ち上がらない。30秒以上かけてゆっくりと。
4.早寝早起きなど生活リズムを正しくする。
5.暑気を避ける。学校の体育の見学は日陰か室内で。
6.毎日運動する。無理をせず、15分程度の散歩から始める。水泳は身体にかかる重力が少ないので好適です。
7.起立性調節障害予防の装具があります。圧迫ソックスや加圧式腹部バンドなどです。
学校や職場にも、起立性調節障害は自律神経の失調による身体的疾患であることを良く理解してもらう必要があります。
薬物処方としては、
1.血圧を上げる薬。
2.睡眠リズム調節薬。
3.自律神経調節薬。
3.漢方薬。
4.頻脈を抑える薬(体位性頻脈症候群のタイプの場合)
、などがあります。
起立性調節障害には、新起立試験の結果によりおよそ5つのタイプの病型がありますが、病型のタイプにより病状に応じた薬の処方を症状の軽快の有無を見ながら随時検討していく必要があります。
起立性調節障害が治療により軽快した状態とは、身体症状があっても薬を服用せずに日常生活に支障が少なくなった状態になった時です。
適切な治療が行われた場合、軽症例では数か月以外で改善します。しかし、翌年に再発する場合もあります。
日常生活に支障のある中等症では、1年後の回復率は約50%、2~3年後は70~80%です。
不登校(通勤困難)を伴う重症例では、1年後の復学(復職)率は30%であり、短期間での復学(復職)は困難です。重症例では社会復帰に少なくとも2~3年かかると考えたほうがよいでしょう。
体力に見合った高校に進学(転校)した場合、第2~3学年になると、90%程度が治ると考えられます。
思春期の起立性調節障害の症状が、成人した後も続く場合もあります。
起立性調節障害でしばしばみられる、「朝起きの悪さ」の原因としては、次の3つが考えられます。
1.朝に交感神経の活性化が悪い。血圧が上がらないので、脳血流が維持できない。
2.午後から交感神経が活性化して、夜に最高潮になり、寝つきが悪くなる.。
3.寝られないので遅くまで起きてしまい、また朝起きが悪くなる。
1.~3.が悪循環となり、ますます朝起きが悪くなります。
1.が一番の原因と考えたほうがよく、朝起こす時は何回か声がけをするが、怒らない。カーテンを開けて朝日を部屋に入れ、布団をはがす。夜は眠たくなくても日常就寝時刻より30分早く布団に入るように努め、消灯する。などを行い、徐々にでも生活習慣を変えて行くように努めます。入眠剤や睡眠リズム調節薬が有効な場合もあります。