心臓神経症は、構造的・器質的な心臓病が認められないにもかかわらず、胸痛、動悸、息切れ、呼吸困難などの循環器症状を訴え、不安感や恐怖感に苦しむ病態です。
不安神経症、抑うつ、パニック障害、自律神経失調症などの一部と考えられ、職場でのストレス、不規則な生活習慣、心因的な要素など、さまざまな要因によって発症します。何らかの不安が根底にあり、異常があれば命にかかわる臓器である心臓を、過剰に意識することにより症状が出現すると考えられます。
胸部の症状以外にも、めまい、耳鳴り、ふらつき、疲労感、四肢のしびれなどを訴えることもあります。更年期障害の1症状として女性ホルモン減少の結果として現れることもあります。
心臓神経症は、構造的・器質的な心臓病がないことを確認した後に診断されます。
胸痛の場合は、心臓や血管の疾患としては、冠動脈疾患、心筋症、弁膜症、心膜炎、大動脈解離、肺塞栓症などを否定します。心エコー図検査や冠動脈CTなどの検査が行われることもあります。呼吸器の疾患として胸膜炎、気胸など、消化器疾患として胃食道逆流、消化性潰瘍、胆石症、膵炎などを、胸壁由来の肋間神経痛、筋肉痛、帯状疱疹、肋軟骨炎などを否定します。
動悸の場合は、不整脈、貧血、甲状腺機能亢進症などを否定します。ホルター心電図や血液検査が行われます。
呼吸困難の場合は、心不全の有無について、胸部X線写真、心エコー図検査、血液検査によりBNP(NT-proBNP)値の測定などが行われます。また呼吸器疾患の有無につき呼吸機能検査などが行われることもあります。
これらの検査と詳細な問診により、他の疾患が否定された時には、症状の基盤にある不安やおそれが何であるかを理解する必要があります。
ストレス、睡眠不足、運動不足、喫煙などの生活習慣の乱れは症状を悪化させるため、改善するようにする必要があります。
不安症状が強い場合には抗不安薬の投与が行われることもあります。
動悸、頻脈などの自律神経症状が強いときには、脈を抑える薬であるβブロッカーが投与されることもあります。
心臓の血管の攣縮によって起こる狭心症や、心臓の細い径の血管の狭窄によって起こる微小血管狭心症が否定できない時には血管を拡張させる薬が投与されます。